小説
□Endless Magic
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【地の力、覚醒。】
よく晴れた朝。気持ちよく目覚めるはずが…。
なに泣いてんだ……。
頬に手をやると、うっすらと涙の跡がある。実際に見てきたような、リアルすぎる夢のせいか。
そういや、光の中に消えた人…アイツに似てたな…。
バシャバシャ顔を洗い、リビングに足を向ける。
「おはよ〜」
「おはよう大地クン、今朝は早いじゃなぁい?」
「あぁ、変な夢で目が覚めた…って! 健全な男子高校生がオネエ言葉でシナを作るな!」
ソファに座ってシナを作っているのは、隣に住んでいる幼なじみの護(まもる)。毎朝うちに上がり込んで、ちゃっかり朝飯まで食っていく。ついでに言えば晩飯も。
護の両親、昔から海外飛び回ってんだもんなー。おばさんと最後に会ったのいつだっけ…?
「まぁくん、いつも迎えに来てもらって悪いわねぇ。今日も大ちゃんをヨロシクね〜」
「任せてください。僕の方こそ、毎朝ご飯まで出してもらっちゃってすみません」
「いいのよ〜。賑やかで楽しいから、いつでもいらっしゃい」
母親が台所から出てきて、テーブルに皿を並べていく。大地の家の朝食の定番、トーストに目玉焼き、それにいくつかのフルーツ。真ん中にはバターロールの入ったカゴが置かれている。それと、大地の前にはコーヒー、護にはオレンジジュースが置かれた。
「ありがとう、おばさん」
「サンキュ、母さん」
大地は"いただきます"と言いながら、目の前のトーストにかじりつく。
「で、夢ってどんなの?」
護が興味ありげに身を乗り出してきた。大地はさっきみた夢を簡単に話してやった。
「どうせ、ただの夢だって」
「…ただの夢ねぇ…」
「…何か言ったか?」
護がボソッと小声でつぶやいたが、あまりにも小さくて、思わず聞き返す。
「ううん、なんでも〜。そのうちわかるよ」
何がそのうちわかるよなのか分からないが、何もかもを分かっているような口振りに首を傾げるが、その先を教える気はなさそうで、ジュースを一気に飲み干すと席を立った。
「ほらほら、早く行くよ」
「ちょっ…待てって! 母さん、いってきます!」
大地は残りのコーヒーをグイッと飲み干し、護のあとを追って外に出た。
☆ ☆ ☆
かったるい授業も終わり、帰宅途中。軽い頭痛がして、大地はこめかみのあたりを押さえた。
「…っ…!!」
「頭押さえて大丈夫?」
護が心配そうな表情で、大地の顔をのぞき込んできた。
「あ…あぁ…。朝からさ、おまえといると、頭痛と一緒に、頭の中に一瞬変な場面が浮かぶんだ。知らないはずなのになんか懐かしい感じでさ…」
「…ふ〜ん」
護が何か考えるように、アゴのあたりに手をやっている。
「ねぇ、これからウチに来ない? 大地に見せたいものがあるんだ」
「俺に…見せたいもの…?」
「うん。もしかしたら頭痛の原因がわかるかも。余計ひどくなるかもしれないけどね」
「?」
クスクス笑いながら大地の前を歩き出す。たまにこいつの考えてる事がわからないんだよな…。
☆ ☆ ☆
「大地、後ろを見ないで聞いて」
少し前を歩いていた護が、ゆっくり歩き、大地の隣に並ぶ。その声には緊張の色がかいまみえる。
「…うん?」
何かあったのか…?
「さっきから、つけられてる…」
つけられてる…?
何かやったか?
いや、尾行されるようなことはしてない…はず。
「ちょっと走るよ。いい?」
「あ、あぁ」
訳も分からないまま、護に手を引かれて走り出した。
いくつかの角を曲がってたどり着いたのは、誰も足を向けないような廃工場の跡地。
「こんな所でなにを…」
「しっ! ここから動かないで」
待ち伏せするつもりか、近くにあったドラム缶の山の陰に隠れる。
するともう一人跡地にやってきた。中央あたりで、何かを探すようにキョロキョロしている。大地たちを尾行していた男のようだ。
「クソッ! どこ行きやがった!?」
「僕たちに何の用?」
「…!!」
……!?
何やってんだよ護!
気づくと護はドラム缶の向こう側にいた。男も驚いたようで、護から離れるように二、三歩下がった。
「クソッ!」
男が右腕を頭の上に上げると、周囲に手のひら程の水の塊がいくつも現れた。その腕を護に向けて勢いよく降ろすと、無数の水の塊が、ものすごい早さで護に向けて飛んでいく。
……!!
大地は驚きのあまり、ただ見てることしか出来なかった。
だが、確かに護に当たったはずの水の塊は、その体を傷つけることなく、一瞬にして水蒸気に変わり消えてしまった。