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□ユーリは学園コスを見つけた
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「そりゃたぬたんを女として見るようになったってことか?」
そこで会話は途切れ、黙々とフレンは着替えた。逆にこの沈黙こそが肯定している。やっぱりたぬたんを妹として見ているなんてのは嘘なんだな。
「(早く伝えてやれよ)」
見ていて何とももどかしい。アイツは待ってるんだから。
「なぁフレン、お前この旅が終わったら」
その時、こっちに真っ直ぐ走ってくる音が聞こえた。誰かと思えばさっき渡した服に着替えたおっさん。
「たぬたんちゃーん。見て、おっさん先生になっがべはっ」
条件反射でフレンと同時におっさんを張り倒した。そんな音は出ないだろうというような派手な音を立て倒れる。起き上がったかと思えば腹を押さえて蹲まった。
「い、いきなり何なの2人とも……」
「す、すみませんシュヴァーン隊長!今たぬたんは着替えているので」
「え、着替え中!?」
無駄に反応してしまった。俺たちの間から奥の方を覗くおっさん。フレンは慌てておっさんの視界を遮るように動いたが、鼻血を出すとかそんな様子がない。不思議に思って俺も後ろを振り返った。
白いワイシャツに大きな赤いリボン。スカートは他の女性陣よりも長めの膝が隠れるくらい。至って普通の真面目な人間だと主張している姿のたぬたんがいた。
「たぬたんちゃん誠実ー」
おっさんは目を輝かせてお前に近寄った。俺はフレンの肩を叩いて振り返らせると、あっと気付いた。
「たぬたん、僕達と同じ制服なんだ」
お前は顔を上げ、落ち着かない様子で俺達の服を交互に見た。
「どうかしたかい?」
「や、その」
「なぁ、俺達と同じなら上着はどうした?」
その単語にびくりと肩を揺らした。
「上着は……飛ばされて」
海に落ちたんだな。「ごめんね」と謝ってくるが、別に俺達が買った物ではない(はず)。気にするなと言うように笑ってやると、おっさんがたぬたんをじっと見て、自分の羽織っていた白衣をお前に掛けた。
「よし、じゃあおっさんのこれをたぬたんちゃんにあげよう!」
「え、でも」
「くれるって言ってんだ、貰っとけよ」
しゃがんでたぬたんの耳元で付け足して。
「新品だからおっさん臭しないしな」
お前は失礼だと思ったのか、声には出さなかったが顔が笑っている。袖を通しながらおっさんにお礼を言う。しかし、身長差が当然あるから袖から手が出てこない。その上裾も引き摺りそうだ。
「不便そうだな」
「これじゃ武器持てないよ」
袖を折ろうと手を動かした瞬間、おっさんと、驚いたことにフレンが同時に待ったをかけた。
「いやいやいや、それが良いんじゃないの!可愛らしさ倍増よ?」
「そうだよたぬたん、その方が似合ってるよ」
何をこいつはムキになってんだか。だが、俺は見逃さなかった。フレンの言葉にたぬたんが反応したのを。お前は照れて頬を掻き袖を直したんだ。
「称号は小さい先生で決定だね」
「ユーリとフレンより立場が上だ」
「じゃあたぬたん先生って呼んだ方が良いかな」
「似合わないね」
そんな話をしていると、エステルがフレンを呼ぶ声が聞こえた。返事を返し、すぐさま走ってそっちに向かう。と、今度はおっさんが「寒いから船室に入るかー」と言い出して甲板から離れた。
その場に残った俺はちらりとたぬたんを見る。お前は大きな溜め息を吐き、俺を見上げた。目が合い、お前は俺の袖を掴んだ。
「ユーリ、私の上着は2人と同じじゃなかったんだ」
「どんなのだったんだ?」
「その……」
余程変な物だったのだろうか。無理に言わなくてもと思ったが、たぬたんは口を噤み、そしてはっきりとこう言った。
「背中に……私の名前が」
「……」
「サイズも私より大きくて」
「……」
だから驚いて捨ててしまったと正直に話す。そりゃつまり、お前の上着じゃなかったってことだよな。ならそれは。
「(俺かフレンの)」
ここで俺のだ、なんて言える訳がない。そんな大っぴろげにお前の名前掲げて歩く真似、俺はしないはずだ。
「フレンだな。ほらアイツ……
妹馬鹿だから」
罪悪感が残った。「妹」と言って家族愛だと思うように差し向けた。いくらお前を想っていると言っても、こんなせこいやり方をしてしまった自分が情けない。
「(素直にお前達が結ばれるのを喜べない)」
何度も心で謝っていると、たぬたんは愛想笑いを浮かべた。
「そうだよね、ユーリはそんなの着そうにないもんね」
「そういうこった」
段々と寒くなってきた。潮風に長時間当たるのは良くないとエステルが言っていたのを思い出し、服の見せ合いも兼ねて船室に入るかとたぬたんを促した。
風を強く切る音の所為で気付かなかった。お前が呟いたことを。
「ユーリのだったら、良かったな」
たぬたんの横にずっといたラピードはお前に擦り寄り「ワフツ」と吠えて尻尾を振った。お前はどこか寂しそうに微笑んで、俺の後を付いてきた。
fin
上着はどちらの物だったのか。仮にユーリのだったとしてもそんなのは着て欲しくはない。ノリということで