倉庫


□右目に触れて
3ページ/3ページ

帰り道、たぬたんと手を繋ぎ晒しを外して歩く梵天丸。風を右目に受けるのが何とも久しくく思えた。

「そういえば、どうして川原にいたんだ?」
「蛍がいるかと思いまして」

梵天丸と小十郎の3人でよく見に来ていたことを思い出し、訪れてみたのだ。

「見つけたら梵天丸様にお伝えしようと思っていましたが、少し早かったようですね」
「じゃあ、今度は一緒に来よう」
「はい」

と、ぽうっと1つの光がずっと先に見えた。梵天丸はたぬたんの手を離し、それに向かって走った。段々とそれに近付くと提灯だと気付いた。それを持っていたのは。

「梵天丸様!」

小十郎だった。

「このような時間にどこに行かれていたのですか!?小十郎は心配しましたぞ!」
「ごめんなさい……」
「小十郎殿、今回ばかりはお叱りにならないで下さい」

追い付いたたぬたんは言った。彼女もいたことに益々小十郎は驚いた。

「たぬたんもなぜここに!?」
「私は」

言い掛けた時、小十郎の後ろを小さな光が通った。

「あ、蛍」

その言葉を合図にしたかのように、辺りの草むらから一斉に光が飛び出した。星空に劣らない美しさ、3人はしばし言葉を呑んだ。
梵天丸は目を輝かせ、たぬたんの袖を握った。

「たぬたん!こんなに沢山いたよ」
「はい、綺麗ですね」
「蛍を見に来ていたのですか?」

小十郎の問いに梵天丸とたぬたんは顔を見合わせ、首を横に振った。

「違うよ、もっと大切なことを確かめに来たんだ」

はっきりと言わない梵天丸の言葉に頭を捻ったが、たぬたんの微笑みを見て小十郎は納得した。

「(もう大丈夫か)」

彼は説教をすることなくそのまま帰路を共に辿った。




「梵天丸様、晒しは」

屋敷に着いて彼の手に握られている晒しに気付き、小十郎は尋ねた。梵天丸は首を振って「いいんだ」と言った。

「梵の右目は、たぬたんと小十郎になら見られても良い」

自室に入りたぬたんを呼ぶので、彼女も入ろうとすると小十郎が呼び止めた。

「梵天丸様のお気持ちを救ってくれてありがとう」
「小十郎殿がきっかけを作って下さったお陰です」

微笑み、部屋に入る。布団に潜って彼女を見上げる梵天丸。

「たぬたん、梵と一緒に寝て」

可愛いお願い。彼女ははいと答えると、少し小さい布団に入った。

「ずっと言いたかったんだ。でも怖くて言えなかった」
「もう大丈夫ですか?」
「うん」

小さな手は彼女の手を握り、体をぴたりと寄せた。たぬたんはもう1度晒しの巻かれていない彼の右目に口付け目を閉じた。

もう怖い夢は見ない
たぬたんがいてくれるから梵は平気だよ


数日後、梵天丸にたぬたんは眼帯を贈った。その眼帯はずっと彼に大切に使われた。時々外しては彼女にぬくもりを貰いながら。


前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ