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□いつかまた この庭園で
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しばらく月日が流れた頃、たぬたんは呂蒙の自室に呼ばれた。
「お前は武に長けている。しかし知略も引き伸ばせると思っている」
「はい」
「そのために大殿が私に頼まれたのだ、お前をある人物に会わせてやって欲しいと。会ってみる気はないか?」
城主の気持ちを受け取らない部下などどこにいるか。たぬたんが頷くのを見て、呂蒙はその人物であろう名を呼んだ。入ってきたのは少年の面影を残した、たぬたんより少し背の低い青年だった。
「陸遜伯言です。貴女のことは様々な方から聞いています。まだ若輩者ではありますが、よろしくお願いします」
礼をしたのを見て、たぬたんも微笑んで礼をした。
「この変わり行く時代を切り開いていくのは、お前達若者だ。たぬたんは武を、陸遜は知を教え合い、自分自身を強くしていって欲しい。殿はそう仰っていた」
――陸遜、あの者ならばたぬたんを任せられる。あの2人はきっと互いを必要とする
呂蒙は孫堅の言葉を思い返し目を瞑った。
その日のうちにたぬたんと陸遜は庭園に足を運んだ。奥には花畑、あの時と変わらずあの花が咲いている。
「これから行き詰ったり悩んだりすると思う。その時はここに来ると良いよ」
「はい、覚えておきます」
たぬたんは花畑の中に入っていった。風で揺られると甘い香りが微かに漂ってくる。
「良い香りですね」
「陸遜はこの花言葉を知ってる?」
「いえ、私はそういう学には疎くて……」
たぬたんは恥ずかしそうに頬を掻く彼に背を向けてしゃがんだ。
「だったらこれも覚えておくと、いつか役に立つかもしれない」
陸遜は彼女の横に同じようにしゃがみ花に触れた。
「この花はどういう意味なのですか?」
「"私を忘れないで"」
それがこの花、勿忘草の意味。
――いつかまた、この庭園でお前に会いたい
この花が咲き続ける限り会いに来ましょう。
「(……父さん)」
ここで貴方は待っているから。
完