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□君の寝顔を見て思う事
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急ぐ旅の中では街に辿り着けない日は何度もある。今日もその日で、街道近くで野宿をすることになった。

「今日の見張りはユーリだね」

食事の後片付けをしながらカロルがユーリの方を向いた。

「お、青年ならどこかの少年と違ってうっかり眠っちゃうなんてことはないから安心ね」
「あ、あれは偶々だよ!」

レイヴンの茶化しにカロルは顔を赤くし、大声で言い訳をする。ユーリは苦笑してその時の状況を思い出した。

「あぁ、あれか。危うく全滅するところだったな」
「み、皆助かったんだから良いじゃんか……」

段々と落ち込んでいくカロルの姿を見て、悪い悪いと笑う。

「ほら、明日早起きするんならさっさと寝るに限るぞ」
「うん、おやすみユーリ」

先程の落ち込みはどこへやら、カロルは嬉しそうに焚火近くに集まっている皆の傍に行った。
今日は特別に冷え込んでいる、なるべく互いが寄って寝るのだろう。そんな日に限って見張り番になるとはついていないとユーリは思う。
その様子を眺めながら、剣を片手に広い範囲を見渡せる位置にあった木に凭れ掛かり座った。
と、寝る態勢に皆が入り始めた時、たぬたんがラピードと共に彼に近寄ってきた。

「どうした?今日は焚火から離れると相当寒いぞ」
「ユーリも同じ」

そう言うとたぬたんは彼と間を少し取って座り、ラピードをその間に呼ぶと、多少その場が温かくなる。

「ラピードで暖を取れってか。よく許してくれたな」

慣れ合いをあまり好まないラピードにしては珍しい行動だ。

「ラピードも寒いんだよ。ね?」
「ワウッ」

大きく伸びをしてたぬたんが寝転んだ。さり気なく自分を気に掛けてくれていることにありがとうと心の中で呟いた。

「これでフレンがいたら昔と同じだね」

下町時代、2つのベッドをくっつけてその上で3人が一緒に眠っていた頃。随分と遠い過去のように思える。

「もう1度3人で寝たいな」
「アイツに会った時に言ってみたらどうだ?」

恐らく「年頃の女性がそんなことをしたら駄目だ!」と言い、顔を真っ赤にするだろう光景を想像したら笑えた。たぬたんも同じことを想像したのだろうか、「怒られそう」と笑った。
次第に焚火辺りからの声も聞こえなくなると、2人も自然と言葉を交わさなくなり、気付けば彼女は寝息を立て始めていた。ラピードも目を閉じている。

「おやすみ」

焚火の音と虫の音、風が草木を揺らす音だけが辺りに響いた。




いくらか時間が経った頃。魔物の気配も感じられず、ユーリは少し息を吐いた。白い息が出る度にラピードが横にいて良かったと素直に思う。
頭をそっと掻いてやると耳がぴくぴくと動く。目を覚まさない辺り、彼も疲れているのだろう。

「(本当に珍しいな)」

それもたぬたんが傍にいるからなのか。
彼女からはどこか優しく、落ち着く香りが漂ってくる。ラピードはその香りが好きなようで、彼女が近くにいると戦闘時以外は少しばかり気が緩んでいるように見える。その僅かな差が読み取れるのも、付き合いの長いユーリくらいだが。
ぼんやりと考えていると、焚火傍にいたレイヴンが上体を起こした。辺りを見回してユーリ達の姿を見つけると寄ってきた。

「何だおっさん、寒さのあまりトイレに行きたくなったのか?」
「違うわよー、たぬたんちゃんが青年に襲われないか心配になったの」
「俺はむしろおっさんの方が襲いそうに見えるけどな」

たぬたんを起こさないように、比較的小声で話す2人。レイヴンは悪戯っぽく笑うとたぬたんの横に座った。

「そんなことしたらおっさん、青年に殺されちゃうって」
「俺だけで済めば良いけどな」

意味がよく分からなかったレイヴンは不思議そうな顔をした。何でもないと手を振り、「つーか」と言葉を続けた。

「寝てなくていいのか?おっさんは体力ないだろ」
「んー目が醒めてね」

そう言うとたぬたんに視線を落とす。体を丸めてラピードの身体にくっついている。時々無意識に彼の尻尾が動く。

「ワンコが羨ましいねー。まぁよく眠っちゃって」

この、とラピードの耳を軽く引っ張る。それでも目を覚まさない。

「たぬたんちゃんを皆のとこに連れて行った方が良いんじゃない?いくらワンコがいても寒いっしょ」

別にユーリから離そうとしている訳ではない。本当にたぬたんを心配しているようだ。

「たぬたんはそんなヤワじゃない。それに……あれが見られるかもしれないしな」
「あれ?」

首を傾げるレイヴンを横目で見て、ユーリは口角を上げた。

「おっさんにゃ勿体無いもんだよ」
「えー見たくなるじゃない」
「……ま、減るもんじゃないか」

たぬたんに掛かっていた毛布を肩まで上げて掛けてやる。それから何をするのかと目を輝かせてレイヴンは見ていたが、別段何をする訳でもなくユーリは再び木に凭れ掛かった。

「何なの?期待させといてそれ?」
「まぁ黙って見てなって」

口を尖らせた彼を軽く宥めるようにしてじっとたぬたんを見た。それに倣うようにレイヴンも彼女を見た。
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