倉庫
□あの日の君と私
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燃えている、みんな燃えている
それなのにどうして私だけが助かってしまった?
怖いよ、助けて、助けて趙雲さん、趙雲さん……!
「たぬたん、目を覚ましなさい」
優しくたぬたんの肩を揺すったのは諸葛亮。書物を届けに来た後、彼女は仮眠と言って彼の部屋にあった椅子で眠っていたのだ。思い切り目を開き顔を上げた。
「あ……」
「よく眠っていましたね。そろそろお昼時ですよ」
彼女が先程まで見ていた夢を知らない彼は小さく微笑みながら促す。悪夢を止めてくれた彼に心の中でお礼を言った。
「すみません、長い時間居座ってしまって」
「いえ、代わりに昼食後は沢山の書物を運んで貰いますから」
たぬたんは苦笑して立ち上がった。しかし、俯いて何かを考え申し訳なさそうに口を開いた。
「あの、お昼を一緒に食べて頂けませんか?」
「今日は趙雲殿と共にしないのですか?」
その名前を出すとたぬたんは黙ってしまった。不思議に思いつつも、諸葛亮は口元を羽扇子で隠した。
「……深追いはしませんよ。私もたまには誰かと食事を取りたいですしね」
趙雲は辺りを見回した。ここ数日たぬたんは鍛錬場に来ていない。この時間が楽しみだと言って毎日来ていたのに。
「たぬたん殿も丞相の手伝いをしていますから、そっちが忙しいんじゃないですか?」
「姜維……心の声への応答は止めよう」
「しかし本当に珍しいな」
馬超は振るっていた槍を壁に立て掛け一息ついた。
「何かそこまで急ぐようなことがあったか?」
「戦の気配はありませんし、問題になるようなことも特には」
何かありましたかねぇと思い出している姜維を見ていると、趙雲は何か用があった気がと同様に考え始めた。そして、あっと思い出し城の方へ歩き出した。
「趙雲、今日はもう止めるのか?」
「あぁ、諸葛亮殿に呼ばれていた」
約束の時間より遅れたかもしれないと思い、彼は走った。
「え、たぬたんとですか?いえ何も」
諸葛亮の部屋に入ると突然たぬたんと何かあったのかと聞かれた。
「最近彼女はここで昼食を取っています。いつも貴方と共にするのになぜかと聞くと渋るのです」
思い返せば会ってもいない。最後に会ったのはいつだっただろうか。そこまで広い城ではない。避けられているのかもしれない。
「彼女は今どこに?」
「書庫です。貴方にも手伝って貰いたかったのでお願いしますね」
「分かりました、感謝します」
礼を言うと、趙雲は彼女のいる場所に向かった。書庫など随分足を運んでいない。そこの特有の匂いを思い出し懐かしく感じた。扉は開いており、中を覗くと人の影は見えない。
「(奥の方にいるのか)」
辺りを見回しながら進むと、梯子に上り書物を戻している彼女の姿があった。忙しそうに片付けているのは戻す物が多いためだろうか。
「たぬたん」
彼女の名を呼ぶと、本人は驚き趙雲の方を向いた。その姿を認めると慌てて梯子から降りた。
「趙雲さんお久しぶりです。その……すみません、しばらくお昼を共にしないで」
「それもあるが、鍛錬の方にも来ていなかっただろう。私は君に何かしてしまったかい?」
「いえ、違うんです!悪いのは私ですから」
趙雲とは目を合わせず俯いて話すたぬたん。彼はしゃがんで見つめた。
「私に話して貰えないか?君に避けられるのは辛い」
寂しそうな顔をして笑う彼を見て、たぬたんは申し訳ない気持ちになった。自分勝手な行動のせいで傷つかせている。それなら、いっそ。
「(全て話した方が)」
意を決し、ぽつりぽつりとか細い声でたぬたんは話し始めた。