倉庫


□ねぎがお楽しみ武器になった訳
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汁の中には具が様々入っていた。香りもご飯との相性も良し。食欲を誘う青葉城の朝餉。しかし、ただ1つ許せないことがある。

「ねぎ」

汁にぷかぷかと浮いている緑色の野菜。たぬたんはそれを箸で突き、沈めたり浮かしたりしていた。すっかり冷めきっていて食べる気も若干失せている。
共に食べていた仲間はもうそれぞれの持ち場に行き、威勢の良い声が聞こえてくる。はぁと小さく溜め息を吐くと、一段高い所に座っていた城主が口を開いた。

「たぬたん、溜め息吐くんじゃねぇ」

城主の政宗は胡坐をかき、頬杖をしている。その視線は彼の手元の汁椀。たぬたんは自分の汁椀を持ち、彼の傍に行く。

「政宗は何が食べられないの?」
「ねぎ」
「(一緒か)」

汁椀の底にご丁寧にねぎだけ残されている。もし残している物が違ったら交換して食べて貰おうと考えていたが、そうもいかないようだ。

「どうするの」
「お前こそどうすんだ」
「んー……しょうがないから」

手に持っていた汁椀の中身を政宗の方に全て移した。最初はポカンとしていた彼だが、事を把握した瞬間あっと声を上げた。

「おまっ何すんだ!」
「大将がしっかり食べないと」
「残り物押し付けてるだけじゃねぇか!」

やんややんやと騒いでいる時、スパンッと小気味良く障子が開いた。光が思い切り差し込み陽の高さを物語っている。二人は動きを止め、そこに立っている人物を見た。

「残り物とは何のことですかな」

城主の右腕なのに青葉城の台所さえ任されているという何とも変わったヤクザ、もとい小十郎が現れた。たぬたんはすかさず手を上げ政宗を指した。

「政宗様がねぎをお残ししています」
「お前もだろうが」

頭を叩かれ小さく唸ると、小十郎はまたかと言う様に腰に手を当てた。

「好き嫌いをしていては皆に示しがつきませんぞ、政宗様」
「何で俺だけ説教食らってんだよ」

不貞腐れつつその言葉を右から左へ受け流す。その隙にたぬたんは抜け出そうと試みるがすぐに小十郎に腕を掴まれた。

「たぬたん、どこに行く気だ」
「え、持ち場へ」
「自室を持ち場とは言わねぇ」

振り返ると舌を出して笑っている政宗。余計なことを言うなと軽く睨むが、どの道小十郎に捕まっている。ぺいっと広間に戻されると政宗の横に座らされた。小十郎は2人の前で正座し、じっと見据えた。

「ねぎの何が嫌なのですか」
「苦い」

政宗がはっきり答える。ねぎを嫌う大半の理由はそうであろう。大人の味がまだ分からないといったところか。それでも丹精込めて作った野菜だ。残すことを良しとしない小十郎は、それで許しはしなかった。

「小十郎は皆に食べて貰いたく、1日も欠かさず畑に出ているのです」
「んな子供騙しのように言っても食わねぇぞ」

彼の苦労は知っている。例え雨や雪が降ろうが物ともせずに畑に向かう。嵐の日に出ようとした時はさすがに引き止めたが。
しかし、嫌いな物は嫌いなのだ。誰にでもそれはあるはず。それを言い分にいつまで経っても食べようとしない。
どうしたものかと考えていると、今まで黙っていたたぬたんが俯いて叱られた子どものようにしょんぼりと言った。

「小十郎は好きだけど、ねぎは嫌い……」

素で爆弾発言をした。政宗は驚いてたぬたんを見たが、小十郎は至って冷静で彼女の方を向いた。

「だったら好きになった理由を考えてみろ」

真顔でそんなこと聞くなよと思わずツッコミそうになったのを政宗は手で抑える。1人慌てる彼の姿はどこか滑稽だ。そんな彼を視界には入れず、たぬたんははっきりと。

「いつも傍にいてくれる」
「それだ」

何がと問う前に小十郎は畑に走って行った。呆然と2人はその姿を見送った後、顔を見合わせる。

「ねぎ、どうしようか」
「今日は良いんじゃねぇか?それよりたぬたん……お前小十郎が好きだったんだな」
「うん」

政宗はそうかと1人頷くと、たぬたんの肩をぽんぽんと叩いた。

「大丈夫だ、アイツもちゃんとお前を見てる」

確信があった、何となくだが。城主の、それも小十郎を右腕として置いている彼の言葉に励まされ、たぬたんはありがとうと言った。




「……が、告白のtimingが悪過ぎたな」

戦場で剣戟が響く中、政宗とたぬたんは激戦区から少しばかり距離を置いたところに立っていた。辺りは血の匂いで充満して……はおらず、代わりに別の匂いが鼻を突いていた。

「ねぎ臭い……」

初め見た時は目がおかしくなったのかと何度も目を擦った。しかし、いくらそうしても小十郎の手の中にある物は同じでねぎだった。

「小十郎、それどうするの……?」
「戦う。今日からこれが俺の得物だ」

脇差までもごぼうに変わっている。何でそんなことをするのかと聞く前に、彼は珍しく優しく笑ってたぬたんを見た。

「身近になると、いつか好きになるかもしれないだろ?」
「あ、えっ」

虚を衝かれ動揺している間に彼は戦場へと向かう。命のように大切にしている野菜を得物にしてまでたぬたんに好きになって貰おうとしている。涙が零れそうになり目を思い切り瞑る。気合を入れ直し、彼の後を追った。

そして今に至る。小十郎がねぎを振るう度に独特の香りが放たれ、政宗とたぬたんは気分が悪くなっていった。辺りを警戒しつつそこに座り込む。

「これが毎回続くと思うと、戦いまでも嫌いになりそうだ」

その後、たぬたんがねぎを好きになったか否かは謎だが、小十郎と結ばれたのは確かであった。




ねぎ充電できるとか、まじ小十郎さんぱねぇっすよ。電気ネズミもびっくり。
 

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