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□貴方と雪〜藤堂編
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朝早くにたぬたんが起こしに来て何だろうと思ったけど、「雪が沢山積もってる!」と息を弾ませて言うからばっと起き上がった。

「えっまじ!?」

たぬたんは何度も頷いて早くと急かす。俺はたぬたんが目の前にいるのも忘れて着替えを済ませ、廊下を飛び出した。

「「雪ー!」」

大声で笑って下駄を履き真っ白な庭を走った。西本願寺ってびっくりするほど広いから、今俺達が通ったとこなんてほんの一部。

「これだけ雪があったらさ、色んなことできるよな!」

「うん、雪合戦し放題」

雪合戦か。それも楽しそうだけど折角たぬたんと2人きりなんだから別のことをしたいな。

「んー……なぁ、雪だるま作らねぇ?」

そしたらたぬたんは目を丸くした。

「平助君、作る方が好きなんだ」
「ま、まぁな!いつもは左之さんや新ぱっつぁんに合わせてるだけなんだよ」

すかさず嘘を吐いた。へぇとたぬたんは相槌を打ってくれたけど、これ以上聞かれても墓穴を掘りそうだったから切り上げて雪玉を転がした。

「俺、体を作るからたぬたんは頭を頼むぜ!」
「了解」

その後は黙々と転がした。時々たぬたんを横目で見て、楽しそうな顔をしていることにほっとした。

「(たぬたんが笑ってる)」

当たり前のその表情が今の俺には貴重なものに見えた。

「(だって、じきに俺は)」

頭を大きく振ってそれを忘れようとする。せめてこの時だけは心から楽しみたい。たぬたんが作ってくれたこの時間だけは。

「――君、平助君」

たぬたんの呼び掛けに気付けば、横に腰くらいの大きさになった雪玉があった。

「どんだけ大きくしたんだよ!」
「え、平助君大きい方が良いって言うと思ったんだけど」
「そりゃ大きいのが良いけど……」

体をすごくでかくしなきゃいけないよな。けど、たぬたんの残念そうな顔を見て胸がちくりとした。悲しませてる。

「じゃあ、こっちを体にして平助君のを頭に「いや、男に二言はないっ」

俺は気合を入れてまた雪玉を転がした。たぬたんが喜ぶくらいでかいのを作ってやる!




「持てる?」

たぬたんの作った頭は相当重い。「俺が乗せてやる!」と見栄を張ったせいで既にお手上げ状態だ。
いや、ここで諦めたらみっともないぞ平助!根性を出して持ち上げようとした時、反対側にたぬたんが立って雪玉に手を添えた。

「たぬたん!?」

「"男に二言はない"とか言わないでよ。助けが欲しい時は頼らなきゃ」

そう言って同時に持ち上げて、予想以上に大きくなった体の上に何とか載せた。助かったと息を吐いたのもほんの僅か。何か不安定だな。しっかり上から押さえ付けないと危ないよな。
そんな矢先、ぐらりと頭が動いたのが見えた。たぬたんの方に傾いている。運悪く自分の手を擦り合わせて目を瞑っている。

「!」

俺は危ないと言葉にする前にたぬたんの腕を引っ張った。

「へー……」


どさっ

危機一髪ってこういうことを言うんだよな。心臓がどきどきいってる。たぬたんが今いた場所に重かった雪玉の残骸が散ってる。たぬたんは呆然としていたけど、「あー」と気の抜けた声を出した。

「危なかったー。平助君ありがとう」
「あぁ、ちゃんと乗ってなかったんだな……」

二人で胸を撫で下ろして沈黙がやってくる。思ったけど、俺しっかりとたぬたんの腕を掴んでんだ。慌てて手を離すとたぬたんは掴まれてた腕と俺の手を見比べて手を包み込んできた。

「平助君、凄く冷えたね」
「え、あ、いや、たぬたんだって手ぇ冷たいじゃんか!」

自分の顔が赤くなったのが分かる。それに気付かれないようにたぬたんの手を包み返した。はぁ、と息を吐いて2人分の手を温めるとたぬたんも同じようにした。
やましいことしてる訳じゃないのに変な気分になって手に汗が浮かんだ。幸い俺達の手は雪で濡れてたから分からない。

「平助君」
「ど、どうした?」

声が思わず上ずった。明らかに挙動不審になってる。たぬたんは真っ直ぐ俺を見てこう言った。

「何を悩んでるの?」

心臓が今一度大きく跳ねた。真剣な目で見られるのが辛いけど、ここで目を背けたら認めてしまうことになる。

「俺、別に悩んでなんか」
「分かるに決まってる。口数が減ってぼんやりしてる時間が増えて」
「……」

誤魔化せない、よな。たぬたんの洞察力を侮ってた。それでも言う訳にはいかない。どの道知ることになるんだ。それなら少しでも遅く、悲しませる時間を短くしてやりたい。
何を聞かれても白を切るつもりだった。だけど、それ以上たぬたんは何も追求してこなかった。

「私に相談できないことでも、原田さんや永倉さんにはできるんじゃない?1人で抱え込むのは駄目だよ、そのために集団はあるようなものなんだからさ」

ね?と言ってくるたぬたんにごめんと心の中で謝った。相談役としてたぬたんが役に立たないなんて思ってない。けど、誰にも相談できないんだ。

「……少しでも前みたいな平助君が見られて良かった」

そっと手を離すと「小さい雪だるま作ろうか」と笑って背を向けた。

「(たぬたん……)」

胸が痛かった。俺はもうじきここからいなくなる。仲間を裏切ってあの人に付いていく。だからなのか。ずっと隠してた気持ちを、今なら言える。
困らせるだけだって分かってる。仮に同じ気持ちだったとしても、俺は一緒に来て欲しいなんて言わない。たぬたんにまで皆を裏切るような真似はさせたくない。

――言い逃げでも良いから

俺はたぬたんを背中から抱き締めた。優しい声で俺の名前を呼んでくれる。


「たぬたん……好きなんだ」

それだけを伝えたかった。




彼だから無邪気な甘々でも良いな〜と考えてたのに、いつの間にかあれ?シリアス?
結局彼の恋が実ったのかどうかは貴方の好みで勝手に想像しちゃって下さい。個人的には結ばれて平助離脱までの短い期間を幸せに過ごして切ない別れになるのを希望。
……そこまで考えてんなら書けよ!て感じですけども。
 

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