倉庫


□貴方と雪〜沖田編
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朝食を終え、仕事が入っていない今日はどうやって過ごそうかと廊下を歩いていた時、ふと庭の雪が目に入った。日も出て来たから少し溶けているけど、まだ随分積もっている。

「(今日の巡回の人達、大変だろうなぁ)」

他人事のように思ってご愁傷様と拝むと足が止まった。

「あ」

そうだ、今日は。
足早にいくつもの部屋を通り過ぎ、目的の部屋の前に立つと許可なく勢いよく障子を開けた。

「たぬたん、雪合戦しよう!」

彼女は火鉢にあたり小さく丸まっていた。目をぱちぱちとさせて苦笑する。

「総司は元気だね」
「たぬたんが元気ないだけだよ。年の割に」

おどけて笑うと「一言多いなー」と笑い返してくる。怒っても良いところなのにたぬたんは滅多に怒らない。刀を握る時でさえ微笑んでいる。ある種僕と似ているのかもしれない。まぁどうでも良いけど。
たぬたんの脇を抱えて部屋を出ると、温度差が激しかったのか君の身体が硬くなるのを感じた。

「うぅ、寒い……」
「嫌なら思い切り拒否したら?」
「無駄だってこと分かってるから」

最初から諦めているなんてからかい甲斐がない。それでも連れ出す僕は余程遊ぶ相手がいないのかたぬたんと遊びたいのだろう。
庭でせっせと雪玉を作り始めると、たぬたんが「ねぇ」と問い掛けてきた。

「本当に2人でするの?」
「できないことはないよ」

ふぅっと溜め息を吐きつつも僕に背を向けて雪玉を作り出すたぬたん。刀を握る時は隙を見せないというのに、日常ではどうしてこうも無防備になるのだろう。
僕は作った雪玉の一つを持ち、たぬたんの背中に当てた。男が着るような紺色の羽織に白い雪の跡が付く。君は短い悲鳴を上げると雪玉を投げ返しながら振り返ってきた。

「開始の合図は無し?」

それでも笑ってて。どうしたら君を怒らすことができる?怒らせてみたい。
そんな欲望が心の中で湧いて、最も平常心の境界線を越えそうなことをしようと考えた。

「そうだよ、油断してたたぬたんが悪い」

僕は口角を上げて次々に雪玉を投げた。いくつか避けられて塀に模様を付けたけど、何個かはたぬたんの足や腹に当たった。君は楽しそうに笑って僕に的確に当ててくる。

「何だよたぬたん、上手いね」
「総司がどこに逃げるか見当がつくから」

確かに先回りをして投げている気もする。それならと僕は右に逃げるように動いた。予想通りたぬたんはその方向に雪玉を投げる。でも、僕は君の真正面に突っ込んだ。
驚く表情が見える。その隙をついて君の顔に雪玉を当てた。


べしゃ

「わっ冷た!口に雪が……」

――今だっ

懸命に顔に付いた雪を落とそうと目を瞑って払っているたぬたんに体当たりをし、雪の上に倒した。僕もそのまま君の上に覆い被さった。

「やーっ中に雪が入ったー!」

必死にその冷たさから逃れようと背を浮かせるたぬたん。そうすると自然と胸を反らす格好になる。僕は着物に隠れている君の胸に手を当てた。

「!」

突然のことに驚いたのか、君は僕の手から離れようと背を地に付けたけど、冷たさで顔を歪めた。僕は気にせず君の胸にもう1度手を当てる。そのままそっと揉めば微かに柔らかな感触が伝わってくる。
たぬたん、意外と育ってるんだ。

「……っ総司」

焦りが垣間見えた。僕はにやりと笑ってたぬたんの足を割って膝を入れた。もう片方の手は君の襟に掛ける。
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