★MGS小説

□帰還報告
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「昇進したのね、おめでとう」
「君にはかなわないさ……それより、話っていうのは……」
親密な雰囲気の男女に、彼女の薬指には小さな石のついた指輪……だいたい予想はついていたが、敢えて口に出した。
「私たち、結婚するのよ……あなたには話しておきたくて」
「そうか……おめでとう、式はいつなんだ?」
幸せそうな顔をして語る彼女に、私は複雑な心境になった。
彼女は常に私より優秀な軍人だった。
同期であり友人でもあったが、密かに目標にもしていた……そんな彼女が結婚という人生の節目を経て変わってしまうのではないかという恐れと、目の前に座っている男への子供じみた嫉妬が私の心を乱していた。
全く、くだらない……私は心の中に生まれた感情の波に困惑しながら、ウエイトレスを呼び、紅茶を注文した。
「実は、もう子供もいるの……忙しいし、式はしないで入籍だけするつもりよ」
私の気持ちは隠せているらしい。彼女はバッグの中から写真を一枚出して私に見せた。
生後数か月も経っていないだろう……産着に包まれて眠っている小さな子の写真に、つい口元が綻んでしまった。
「君たちになんとなく似ているな……きっといい子に育つ」
私の言葉に、彼女は頷いて答え、返した写真を大事そうにその手に収めた。
「ありがとう……」

そのまま食事を楽しんだ後、私は恋人の住むアパートに向かった。
彼女は私の急な訪問に驚きながらも、笑顔で迎えてくれた。
「どうしたの、急に来たりして……仕事で嫌な事でもあった?」
シャワーを浴びて出てきた私の頭にタオルを掛け、拭いながら訊く。何でも受けとめてくれそうな彼女の暖かみのある声に、いつもの事だがつい本音が漏れてしまう。私は今日の出来事を全て話した。
「確かにその人は変わるかもしれないけれど……それは仕方ない事よ、母親になるんですもの」
彼女はひとしきり笑って答えた。私のつまらない嫉妬のくだりがおかしかったようだ。
「でも、それは悪い変化ではないわ……それほど素晴らしい人なら、いい変化になるはずよ」
「そうだな……」
髪を撫でる彼女の指が心地よく、私は目を閉じてその肩に顔を埋めた。
やわらかい香水の香りに、気持ちが落ち着いてゆく。
「仕方ない人ね、友達をとられたみたいだなんて、子供みたいな事を言って……私がいるじゃない、我慢しなさい」
冗談めかした彼女の言葉に、つられて笑ってしまった。
愛する人と家庭を作るとは、どれほどの幸せなのだろうか……私は伝わってくる彼女の体温に答えに近いものを感じて、安堵の溜息をついた。
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