★MGS小説2

□化粧と悪戯
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熱いシャワーを浴びて下着を着けた。以前からインナーにはこだわる方だった。補整の役割をさほど果たさない白い肌に映える深い青のレースがあしらわれたセットは、この島に来る前に買ってきたものだ。
ブーツで隠れてしまう脚も滑らかな肌触りのストッキングで包むと、鏡の前の小さな椅子に座った。
化粧水を付け、下地もきちんと使って肌を作る。薄いばら色の頬紅を軽く差したら、それだけで生き生きとした表情になった。
最近気に入っているパールが入ったライトグリーンのシャドーとブラウンのシャドーを重ね付けして、ライトブラウンのアイラインを引く。
あっさりとした付け心地のマスカラで仕上げ、いつものきつい眼差しに僅かに甘さが加わったのを確認してから、口紅を繰り出して、そのまま塗った。
最近取り寄せたばかりの銀のパールが入っているシアーな質感のピンクではなく、日本の紅をモチーフにした、深い赤の口紅だ。薄く付ければ赤、重ね付けすれば玉虫色のグリーンがきらめく。
仕上げに軽くパウダーをはたき、出来上がった鏡の中の姿に、ウルフは満足げに笑った。


「なんか今日、印象が違うね」
不思議がる博士の指が、ヘアアイロンでゆるく巻いた毛先に絡んだ。くすぐったいような心地良さに軽く体をよじり、隣の椅子に座る。
「分からない?」
焦れたような言い方に、オタコンは軽く咳ばらいをした。
「そうだな……化粧をちょっと変えたのはさすがにわかったけれど、それだけじゃないよね?」
感心しているのか、明るいブラウンの目がウルフの顔を正面から眺める。相違点を探ろうとする真剣な眼差しに、柄にもなく心臓が跳ねた。
「……今日は、爪先から頭の先まで違うから」
演習を終え、少し汚れたジャケットを胸元を緩めながら言うと、ブラウンの目は予想した通りの簡単さで、白くて冷えた胸元に釘付けになった。
「気になる?」
「あ……後でね」
急いで目を逸らし、パソコンのモニターを眺める。そのあわてぶりが面白かった。
お菓子をくれなきゃ悪戯するのがハロウィンのお化けたちなら、たっぷり悪戯した上で対価として甘い菓子を振る舞うのもそれなりに道理が通るに違いない。
彼が残っている仕事を終えた後に仕掛ける悪戯をゆっくりと考えながら、ウルフは自動販売機で買ったばかりのコーヒーに口をつけた。

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