★MGS小説2

□かけら集め
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僕が最後に恋した女性……彼女が亡くなってもう何年も経つが、今でもたまに彼女が生きていた頃のかけらを見つける時がある。
軍のサーバーにアクセスした時や、ビッグボスに関する資料を得ようとした時に見かける、小さな情報。
僕はいつでも無視できずそれを集めてしまう。
そして小さなかけらでも、集めれば結構な量になった。
彼女がこなしたミッション、住んだ街に通った学校……そして写真。
これじゃまるでストーカーみたいじゃないかと自嘲しつつもいつ破棄されるか分からない情報だと思うと、なんでも手元に残しておきたくなる。だから、拾ってしまう。
どう足掻いても戻らない人を思い出せば、また辛くなるだけだ。だから日常に溺れながら早く忘れてしまうのが僕にとってベストなんだと理解はしているつもりだ。それなのに彼女の生きていた記録がこの世から消えてしまうのは、無性に嫌だった。
スネークは僕がこっそり隠し持っているファイルの中身に気付いているみたいだけれど、あえて触れてはこない。自分の人生から去っていった女性に想いを募らせるという空しい行為について、スネークも少しは心当たりがあるからだろう。
男同士の居心地のいい距離感を把握しているスネークの態度は、素直にありがたかった。
だが、女の子はそういう訳にはいかない。

「は……ハル兄さん、この人って……」
机に座ったままうたた寝していた僕は、サニーの声に重い瞼を開いた。サニーのきらきらした目はモニターのウルフに釘付けになっている。こうして何かに夢中になっている時のサニーは、とびきり可愛い。
「ん、ああ……綺麗な人だろ?」
ちょっと照れくさい気分だ。自分の子供に初恋の人の写真を見られた父親はこんな気分を味わうものなんだろうか。
「……うん」
サニーは頷きながら、両腕に抱いていたクマの人形をぎゅっと抱き締めた。
サニーは賢く優しい子だから、僕の纏う雰囲気から彼女がもうこの世にいない人である事実を察したのかもしれない。
「さあ、もうそろそろ寝ないと……その子たちも一緒でいいから」
僕は白いクマの頭を撫でた。サニー曰く、こっちの人形が僕の分身だからだ。黒いクマはスネークの分身だと聞いた為か、いまいち撫でてやる気にはならない。
人形2体とサニーと僕で、小さめのベッドは一杯になった。こうしてサニーが寝付くまで添い寝するのは好きな日課になりつつある。
「さあ、早く目を閉じて……すぐ眠くなる」
グレーがかったプラチナの髪を撫でながら、僕はサイドボードの明かりを調節した。
暗闇にはしない。薄暗い施設の中で育てられたサニーは暗闇を恐れ、白熱灯の安っぽいけれど柔らかい明るさを好んでいるからだ。
僕の体にサニーの体がぶつかった。ブランケットにすっぽり包まれた中は暖かく心地いい。
明日までにやらなくちゃいけない事が残っているけれど、少しだけ仮眠するか……サニーに体を寄せながら、僕は誘惑に負けて瞼を閉じた。
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