★MGS小説2

□控え室にて
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「ティアラも可愛いじゃない!」
自分のセンスにいまいち自信が持てず、ドレスとアクセサリーの見立ては全てメイリンに任せてしまった。
しかし判断は間違っていなかったようだ。サイズはどれもピッタリだし、飾り気があまりないデザインなのに適度な華やかさもある。メリルに似合う衣装だった。
メイクが終わり小さなケースを空けて中から可憐なデザインのティアラが現われた時は、思わず心が踊ってしまった。
「可愛いでしょう? お店で見て絶対コレにする!って思ったの」
言いながらメリルの髪を整え、小さな手でティアラを飾る。
鏡の中でキラキラと輝くそれを眺めていると昔アニメで見たお姫様を連想してしまった。気恥ずかしいような、それでいて誇らしいような新鮮な想いがじわりと暖かく胸に満ちていく。
「ありがとう……今回はいろいろ手間かけさせたわね」
自分の結婚式だというのに怪我のせいで長く入院していたり事後処理に手間取っていたせいで自分ではろくに準備ができなかった。
今日という日をこうして無事に迎えられるのも、メイリンやオタコン、そして同じチームの皆の支えがあったからだ。
同年代の友人というだけでこんなに甘えさせてくれたメイリンに、メリルは改めて自分の気持ちを伝えた。
「水臭い事は言わず、素直にツケておいて」
冗談めかして言うメイリンに、メリルも釣られて笑った。
「どうやって借りを返せばいい?」
くるくると表情が変わるコケティッシュな黒い瞳が、メリルには魅力的に映った。東洋人特有の美しい微笑を唇に浮かべ、メイリンは言った。
「私の結婚式には、絶対出席して……と言っても私の場合、まずは相手を探すところから始めなきゃダメだけど」
「出席するだけでいいの? 車の運転と力仕事とボディーガードくらいさせてよ」
腰に下げていたデザートイーグルをケースの上から軽く叩くと、メイリンは綺麗な目を伏せ、首を振った。
「あなたたちが夫婦揃って出席してくれるだけで充分よ」
強調された夫婦という言葉に、メリルは理解した。
夫婦揃って出席する為には二人とも健在で、現在の関係が継続している必要がある。
「分かったわ、約束する」
友人の惜しみない優しさに、メリルは堪らず抱き付いていた。丁寧に手入れをされた黒髪は纏まっていて滑らかで、くしゃくしゃになるまで撫でてやりたかったけれど、我慢した。
「約束、破らないでね?」
小さな笑い声と背中にまわされた暖かい手が、やけに涙を誘ったけれど、野暮な無線機の音のせいで引っ込んでしまった。
「ねえ、そろそろバージンロードの準備をしようかと思うんだけど……」
オタコンの遠慮がちな声がかすれつつ聞こえている。ノーマッドの後部ハッチを空けて絨毯をひきたいという事らしい。
「了解!」
湿っぽい雰囲気を払うと、メリルは勢い良くハッチの開閉ボタンを押した。

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