★MGS小説2

□煙草とウォッカ
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オセロットはソローがポケットから煙草を出すとつい見入ってしまう事が多かった。
まだ若いオセロットは噂でしか聞いた事がなかったがソローは先の大戦の終りごろ西の女との姦通を咎められヴォルギン大佐に尋問をされたせいで、片手片足に軽度の麻痺が残っていた。
その不自由なはずの右手で煙草を取り出す様子があまりにも自然で美しいので、つい目を奪われてしまうのだ。
閑職に追いやられもともと労働らしい労働をしないソローの手は男のくせに白くすらりとしてやけに綺麗だ。以前から髪も長くだらしないままで身なりにあまり気を使わない男だが手だけは爪の先まで文句がつけられないほど美しく、今日は手袋もはめていないのでなおさら目立っていた。
器用にマッチを擦ったところで目が合った。視線を逸らしたので知らないふりをしていればいいものの、どんな時にでもこちらに気付くと近寄ってくるのがこの男だった。
「大尉もいかがです?」
部下として相応しくない馴々しさに面食らうのは、なにもこれが初めてじゃない。もういい加減指摘をするのも面倒になり、オセロットは差し出された紙巻き煙草をおとなしく唇に咥えた。
喫煙の習慣は最近覚えた。軽く嗜む程度だったが長いこと大人の男の象徴のように捉えていた品だったので、最初に煙を肺に入れた時は妙に気持ちが高揚していたのを今でもしっかり覚えている。
今夜は夜風がやけに冷たい。冷え始めた二の腕を擦ると、隣りの男がからかうように言った。
「こう寒くなると熱いボルシチや若くて可愛い娘が恋しくなりますね」
質が悪い事にオセロットがその手の事に疎いと知っていて言っているのだ、この男は。オセロットは挑発に乗らず、溜息をついて意見を述べた。
「俺はウォッカで充分だ」
本当のところ、酒の味を覚えたのも煙草と同じくつい最近だったがわざわざ言う 義理はない。
「じゃあ、この後の見回りが終わったらまた飲みますか」
人懐こい笑顔を向ける部下に、オセロットは頷いて応えた。
例を出したらきりがない程無礼でだらしない男なのに、一緒に飲む酒はやけに美味いからだ。
オセロットは煙を肺に吸い込み、ゆっくりと吐き出した。白い煙は冷たく澄んだ空気に溶けて消えた。

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