★MGS小説

□「ミステイク」後日談
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案内された部屋に入ると、窓際の席に彼女がいた。
「忙しい所、急かせて悪かったわね」
小さなテーブルにはティーセットが並べられている。淹れたばかりの爽やかな紅茶の香りが私の鼻をかすめていった。
「彼女が淹れた紅茶より味は落ちるでしょうけど、レーションに入っている紅茶よりはいくらかましだと思うわ」
飾り気の無い事を言い、カップに注いで渡してくれた。淹れ立ての紅茶はさっぱりとした味わいで美味しい。
私は持ってきたレポートを彼女に渡した。彼女はそれを受け取ると丁寧に目を通していった。ページを捲る手が重く見えるのは、内容があまり芳しくないせいもあるだろう。
「……ありがとう。良く調べてあるわね」
「これが今の私の仕事だからな」
私はこの春から実戦部隊を退き、この仕事をするようになった。
部下を含め10人のチームでコブラ部隊に配属された200人のデータを洗い直し、調査し、正しい個人データを作成するのが今回の任務だった。
そして一部の機密データを除いて隊長である彼女に手渡す事で、今回の任務は終了だ。
「ソ連側から来た兵士のデータは公式のデータとかなり異なるものが多いわね……」
同じ特殊部隊出身である事が判明したソ連軍12名のデータを指でなぞりながら、軽く溜息を吐いた。
「おそらく問題はないだろうが、念のためだ、注意してくれ」
彼女には言うまでもない事だろうが、一応言葉を付け足した。
データを作成する側の人間にとって、そのデータを有効に活用してくれる人間はありがたい存在だ。彼女はその点で言うと最高の部類に属する。安心してデータを渡せる人物だった。
「その兵士……ずいぶんご執心のようだな」
見慣れた写真を添付してあるページをに目を落としている彼女に、つい声をかけてしまった。彼女は私の顔をちらりと見てふっと笑い、紅茶を一口飲んだ。
「出来が悪くて悩まされているのよ、昼夜問わず」
「夜?」
他人事だというのにどきりと心臓が鳴った。彼から少し話を聞いているせいもあり、したくもないみだらな想像をしてしまう。
「最近、夜の空いた時間に車やバイクの運転を教えているのよ。車も満足に運転できないなんて、今までいったいどんな生活していたんだか」
助手席に座っていると時々地獄に行きそうになるのだと愚痴をこぼし始めた。だが、言葉とは裏腹に楽しそうだ。障害はそれなりに多いものの交際は順調なんだろう。
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