★MGS小説

□待っている
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「ウルスラ、こっちに来い」
そう呼べば離れていてもすぐこちらの姿を見つけ走ってくる事をジーンはよく知っていた。腰にしがみついてくる小さなウルスラの頭を撫で、先ほどまで彼女と一緒にいた研究員から今日のレポートを受け取った。
分析結果も申し分ない。途中で騒ぎが起きたと聞いてはいたが、きちんと本日のプランはクリアしているようだ。
「ウルスラ、あれほど騒ぎを起こすなと言っておいただろう。私の言葉の意味が理解できなかったのか?」
本日のレポートにざっと目を通し、ウルスラがせがむので仕方なく手をつなぐ。研究所から病棟への帰り道はいつもこんな調子だ。
「あの人たち……怖い。嫌いよ」
毎日繰り返し続く検査は不快なのだろう。見ず知らずの人間と長くいる事も。
「わがままを言うな」
過度のストレスは検査にいい影響を与えない。暇をみつけて少しは遊びにでも連れ出してやったほうがいいのかもしれないとジーンは思った。
「言わなければ、ジーンと一緒にいられる?」
この国に来てからというもの、ウルスラは常にジーンの傍から離れなかった。検査が始まった日も泣いて嫌がるウルスラを無理矢理引き離し、研究所へと連れて行った。
思えばこの少女も自分と同じだ。
ジーンは自分の身に起きた今までの出来事を振り返り、目の前の少女も似たような人生を歩む事になるであろうと予感した。
それは必ずしも不幸な事ではないと思うが、幸福とも言えないだろう。
僅かに生まれた憐憫の情が胸の奥で疼いた。生き方を選んだあの日に捨てたはずの感情が生々しく甦る事は、ジーンにとって不快だったがどうする事もできなかった。
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