★MGS小説

□彼女の香り
1ページ/2ページ

ポットとティーカップに湯を注ぎ暖めているうちに、棚から紅茶の入った缶を取り出す。
ラベルには英国で有名なとあるショップのロゴが入っている。イギリスに住んでいる友人が送ってくれたものだ。
ポットに入っている湯を捨て、茶葉を入れて湯を注ぎ、ポットをティーコージーで包む。
買ってきたスコーンを皿に載せ、オーブンで少しだけ温める。
もう習慣と言ってもいいだろう。何年も繰り返し、癖のように身についてしまった動作だ。
茶葉が開くまで数分待つ、この時間もゼロは好きだった。FOXの正式編成に関する残務のせいでろくに部屋にも帰れぬ日々が続いている今ではなおのことだ。
「あら、いい香りですね。今日はどんな紅茶ですか?」
仕事の合間に給湯室で紅茶を入れているゼロに、パラメディックが声をかけた。どこか他の部署に足を運んだ帰りなのか、両手には沢山の書類を抱えている。ゼロは簡易キッチンに備え付けられた安っぽい作りの戸棚を閉めながら言った。
「今日はディンブラだ」
ディンブラはゼロの一番好きな紅茶だった。花のような華やかな香りを持っているにも関わらず、味わいもこくがあるのに爽やかで、奥深い。バランスの取れた紅茶だ。
「君も執務室に戻るのか?」
「ええ、少佐もですか?」
書類の束を抱えなおしながら、彼女は笑みを唇に浮かべた。そのどこか少女めいたあどけない表情に、ゼロもつられて顔が緩む。
「丁度いいな。たまには一緒に飲もう」
ティーカップから湯を捨て、ポットや温めていたスコーンと共にトレイに載せて執務室に戻ると、空気を入れ替える為に開け放たれていた窓から紅葉した葉が何枚か、部屋の中に入ってしまっていた。
スネークイーター作戦からもう数週間経つ。執務室から見える見慣れた景色もすっかり秋色に変わっている。ゼロはあることを思い出し、窓を閉めて紅茶をカップに注ぎながらパラメディックに声をかけた。
「そういえば、ジャックは元気でやっているか?」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ