★MGS小説

□飼い犬
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「めずらしいわね、その格好」
部屋に入るなり、僕の姿を見て彼女はそう言った。彼女のきれいな目に穴が開くほど見つめられて、僕はなんだか照れくさくなってスーツの上着を脱いで椅子にかけた。
「今日は例の会社に僕も潜入してきたからね、仕方なくだよ」
今日の僕は極秘裏にメタルギア開発をしている会社の社員として違和感がないよう、黒に近いグレーのスーツに革靴、髪も後ろに撫で付けて纏め、髭も剃っている。
シルクでできた深い青色のネクタイを緩めると、なんだか解放された気分になった。こんな着慣れない窮屈な服は着るもんじゃない。
「脱いでしまうの?……せっかく似合ってたのに」
ウルフの言葉に、胸が疼いた。好きな子に似合ってるなんて言われて、反応しない男なんていないだろう。
「そうかな?」
「きちんとした姿をしている方が……見栄えがいいっていうだけの話」
がっくりくるような返事だったけれど、よくよく見ると、ウルフの頬は少し赤くなっていた。
「それならこれからはずっとスーツを着て仕事をするかな……見栄えがいい方が少なくとも君の好みではあるんだよね?」
彼女の隣に立って顔を覗き込みながらそう言ったら……腹に肘鉄をお見舞いされた。
調子に乗ってからかったのがいけなかったみたいだ。一応それなりに手加減はしてくれているみたいだけれど、それでも痛い。
「い、痛いじゃないか……ちょっとからかっただけなのに」
じくじく痛む部分を撫でながら訴えると、彼女はふふんと鼻で笑った。
「私の躾が厳しいというのは、知っているはずでしょう?」
そうだった……シャドーモセスでの彼女の言動を思い出しながら僕はがっくりと言葉なくうなだれた。
「でも……いい子にしていたら、待遇を考えないでもないわ」
言いながらネクタイを掴んで乱暴に僕の顔を近寄せ、唇にキスをした。
触れるくらいの軽いものだったけれど……僕の心臓は簡単に跳ね上がった。
「少しはお利口にする気になった?」
シャドーモセスでウルフドッグにそうしていたように、指先で僕の鼻にツンと触れる。
素直な飼い犬でいるのも悪くないかもしれない……そんな事を思いながら、僕は顔を寄せて二度目のキスを彼女の唇に落とした。
飼い主が許しているし、利口な飼い犬になるのは、明日からでもいいだろう。

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