★MGS小説

□兄妹
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父が任務から帰還したと連絡が入り、リキッドはいつも通りに母と一緒に軍の空港まで迎えに出かけた。
空港の待合室には、既に見慣れた姿があった。
「おかえり、父さん!」
カーキ色の軍服に包まれた大きな背中に抱きつくと、父はいつものように笑みを浮かべてリキッドの頭を撫でてくれた。
大きくて暖かい手が心地いい。
「お前はいつも元気がいいな」
リキッドは父が大好きだった。
優しい母と二人きりで過ごす毎日に不満があるわけではなかったが、強く優しい父を身近に感じる事ができる休暇は、リキッドにとっては何にも変えがたい大切なものだった。
父は任務から帰るとだいたい一週間くらいの休暇を取っていた。
大変な仕事をした後で疲れているだろうに、それでも父はリキッドに付き合い、キャンプ等に遊びにつれていってくれたのだった。
でも今度の休暇は少し違う。
いつもリキッドにつきあってくれる父にゆっくり休んでもらう為、母と一緒にいろいろと計画を立てていた。
「なんだ、ずいぶん機嫌がいいじゃないか」
「家に帰ったらね……今はまだ内緒!」
手を引いて母のもとに連れて行こうとして、リキッドは父の隣に座っていた少女に気付いた。
小さな女の子だ。
肌は白く、金の髪は肩に届くくらいで、目は晴れた空の色みたいな色だ。
「任務先で出会った子だ。これからはこっちで暮らすが、しばらくはうちで預かる事になっている」
話を聞くと、休暇中はうちで一緒に暮らすと言う。
まだ小学校に通っているような歳なのに、中東では銃を取って戦っていたと聞いて、リキッドはその小さな子に興味が出てきた。
視線を逸らせずやや狼狽しながら黙って少女を見つめているリキッドに、父は笑って頭を撫でた。
「仲良くするんだぞ?おまえの方が兄さんだからな」
それがウルフとリキッドの初めての出会いだった。

「ウルフ、食事だぞ」
その後休暇の間だけという予定は大幅に変更になり、ウルフとは数年を一つ屋根の下で過ごす事になった。
自分の出生の秘密を知り、リキッドが家を出るまでその兄妹のような関係は続いた。
「ああ、ありがとう……」
「隣、いいか?」
頷くウルフの隣に座り、豆のスープを一口含む。
砂漠の寒さで凍え切った体が暖まっていった。
かつて一緒に暮らしていた時からの癖が体に染み付いてしまっているのか、リキッドはウルフと一緒に食べる食事が一番落ち着いた。
囚われていたところを父に救出され、一年前に同じフォックスハウンド所属になってからは一緒に過ごす機会も増えている。
血は繋がっていないが、兄妹とはこういうものなのだろうかと、リキッドはスープを飲みながらぼんやりと考えを巡らせた。
「何を考えているの?」
考え事をしていたのがばれたらしい。
リキッドは苦笑いしながら答えた。
「いや……早く本国に帰ってのんびり酒でも飲みたいと思ってな」
「……たまには母さんに顔を見せればいいのに」
リキッドと同じく、ウルフも血が繋がっていない父の恋人の事を母と呼んでいた。
「そうだな……不肖の息子だが、たまには顔を出すか」
不満そうな顔をして言うウルフにリキッドはごまかしながら答えた。
父、母、兄弟……出生の秘密を知った時、自分には兄弟がいると知らされた。
会うこともないだろうが、もし出会ったならその兄弟を愛せるだろうか……それとも憎むのだろうか……。
リキッドは自嘲的な笑みを唇に浮かべ、スープの残りを飲み干した。

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