★MGS小説

□OZ
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指定されたバーに入ると、聞き慣れた映画の音楽が流れていた。
あれは確か、ジュディー・ガーランドのオズの魔法使いだったと思う。
ステージに上がっている歌手が色っぽい声で歌っている中、俺は彼女の姿を探した。
「久しぶりね、元気だった?」
黒髪のきれいな女が近づいてくる。どうやら彼女の方が先に俺を見つけてしまったようだ。
バーにふさわしく、彼女はシンプルな緑のワンピースを着ていた。
ビーズが沢山ついたクラシカルなドレスとも言えるそれに、足元はえんじ色のパンプスを履いている。
「こんばんはドロシー、きれいになったな?」
彼女は俺の顔を見て、ふっと笑ってみせた。
「私を手放した事を後悔でもした?」
俺は死角になっている通路に彼女を引き込み、艶やかなベージュピンクに彩られた唇に、挨拶代わりの軽いキスをした。
「そうだな……でも過ぎた話だ」
俺からの別離を選んだ彼女を追わなかった事に対して、言い訳をする気はなかった。
「……なぜドロシーなの?」
彼女の本当の名前を呼ばない理由については気付いていたようだったが、偽名の選択には疑問を抱いているらしい。
「さっき流れていた曲もそうだが……君の格好だ」
「私の?」
「昔見た映画でオズの魔法使いのドロシーが、ちょうどそんな色の靴を履いていたんだ……魔法の靴なんだが」
彼女は俺の言葉を聞くとくすりと笑って、俺の胸元に手を置いた。
「そう……私がドロシーなら……あなたは何かしらね?」

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