★MGS小説

□朝の風景
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目覚まし時計が鳴るよりも30分早く起きた。
隣にウルフが寝ていたから起こさないよう気を付けてバスルームに向かう。

窓から外を見ると、夜が明けたばかりの紫色の光が積もった雪に映えて、やけに綺麗だった。

いつも通りに歯を磨き……今日は寒いのでシャワーを浴びて暖まる事にした。
先日仕立てたばかりの眼鏡をとって服を脱ぎ、コックを捻って熱い湯を浴びていると、誰かがドア開ける気配がした。

「あ、おはよう……結局起こしちゃったみたいだね」
シャワーカーテンを引くと、そこにはウルフの顔があった。
僕とは違って少しも寝呆けた様子がなく、今日も綺麗だ。
僕はそのまま、おはようの挨拶代わりの軽いキスをした。
「私もそろそろ起きようと思っていたから、ちょうど良かった」
いつもみたいに愛想のない言葉を口にするけれど、態度は柔らかい。
ピンを数本使い、長い金髪を器用にくるりと後ろでまとめ、青い目が僕を捉えた。
「私も暖まりたい……一緒に入ってもいい?」
ふっと息をつくような優しい声で、彼女は僕にねだった。

お互いの体を洗い、バブルバスに二人で浸かっていると、僕の顎に彼女の指が伸びてきた。
「髭、伸びてる……」
眼鏡をしていないから表情まではよく分からなかったが、声は少し笑っていた。
彼女の細い指先が、僕の輪郭を確かめるようになぞっていく。
「ああ……そういえばここ2日くらい剃ってなかったな」
ウルフに指摘され、今更ながら気付いた。
僕の場合、少しものぐさ過ぎるのかもしれない。
「上を向いて」
シャワーカーテンを引いて洗面台の上にあったシェービングクリームを出して僕の顔に塗った……いやな予感が頭を過っていく。
「いや、大丈夫だよ……あとで自分でするし」
「動かないで……そのままじっとしてて」
ウルフは途中で止める気なんてないようだった。
剃刀を手に取って、そっと僕の肌に当てた。
ひんやりと冷たい刃に、体がぞくりとする。
当てられた刃は、ゆっくりと上から下へと下がっていった。
ウルフの性格を表すように、その動きは繊細で丁寧だ。
「もうすぐ終わる……ほら、できた」
顎の下まで無事に剃り終え、僕は思わず溜め息を吐いてしまった。
「私が失敗するとでも?」
少し不服そうに言い、剃刀を洗面台に置いて僕の首に腕を絡めてくる。
「そうは言っても、床屋でもない人に剃ってもらうって、やっぱりちょっと恐いじゃないか」
控えめに反論する僕の唇に、彼女の柔らかいそれが重なった。
深いキスを十分に味わった後、彼女はふふっと悪戯めいた笑いを零した。
「扱い慣れてないという理由で心配なら、次はナイフできれいにする?」
「スネークじゃあるまいし……遠慮しとくよ」
僕は出かけている同居人の事を思い出しながら、笑って返した。

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