★MGS小説

□患者の見解
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コロンビアで囚われて尋問を受けていた最中、考えていた事はいくつもある。
私的で本当に下らない望みだが、生きて帰れたら好みの女と飽きるほどしようと思っていた事もあった。
神はどこかにいるのかもしれない。一応望みはかなったようだ。
買い物を終えて病院に着いたのは12時すぎだった。大きな総合病院なのでどこに行けばいいのかいつも迷ってしまう。
館内図を見て辿りつくとすぐに看護婦が俺の名を呼んでくれた。通された診察室には見慣れた姿があった。
「こんにちは、キャンベルさん」
「こんにちは、よろしくお願いします」
笑顔を見せてくれたが昨日とは随分態度が違う。冷ややかな視線をレントゲンに向け、俺の脚を触った。
「体の調子はどうですか?」
調子がいいか悪いかなんて、昨夜さんざん確かめたくせに。
「いいですよ。ただ少し、今日に限って体がだるい気がします。腰とか」
「……腎臓の検査結果も正常値なので問題ないと思いますよ。なにか無理でもしたんじゃないですか?不摂生はしないように十分気をつけて下さい」
僅かな沈黙がやけに痛い。彼女の冷静なコメントに、横で準備をしていた看護婦が噴出した。笑いたければ笑えばいいと思いつつも少し恥ずかしくなった。あんたが来いと言ったから来たんじゃないか。つれない態度が憎らしい。
「完治してますね。定期健診が必要なので次は二ヵ月後にでも来てください。忙しいお仕事でしょうから都合のいい時にでも予約を入れて下さい」
さらさらとカルテにペンを走らせ、メモに病院の連絡先番号を書いて俺に渡してくれた。どうやら診察予約を入れる時の番号のようだ。完治していると言われたのは嬉しいが、次に会えるのが二ヵ月後というのは寂しい。
「怪我をきれいに治す為のお薬も後で出しますから、毎日忘れないで飲んで下さいね」
笑顔で話す彼女に、俺は持ってきた書類を渡した。ぎりぎりで思い出してよかった。
「これ、保険と労災の申請に使うのでよろしくお願いします」
渡した書類に目を通し、彼女は頷いた。
「では早めにお渡しした方がいいですね。今日はもう時間がありませんけれど数日中に用意しましょう」
机の引き出しを開け、小さな紙にメモし、俺に手渡した。紙の正体は名刺だった。先ほどの番号とは違う番号が書かれている。
「私の自宅の番号です。病院にはいない事が多いので、書類を取りに来られる日が決まったらこちらに連絡をして下さい」
看護婦が診察室からいなくなったのを確認し、俺は小声で訊いてみた。
「先生、この番号は私事でも連絡してかまいませんか?」
「どうぞ。ただし時々兄が出ると思いますけれど、それでも宜しいですか?」
どうやら一人暮らしではないようだ。少し落胆しつつもそのまま胸ポケットにしまった。なくさないようにしなければ。
「ではまた後日」
「お大事に」
決まりきった挨拶を交わし受付で薬と領収書をもらって外に出ると、もう日が傾き始めていた。でかい病院の手続きは面倒で困る。
駐車場に停めていた車に乗り、貰った名刺を手にとって眺めた。しっかりと彼女の本名の書かれたそれが、今はやけに愛しく感じた。
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