★MGS小説

□患者の見解
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「自宅療養中にしては真面目に摂生しているみたいね。元気そうじゃない」
何度もしつこく鳴る煩いチャイムの音に眠りを妨げられ玄関まで歩いていくと、ガラスの張られたドアの向こうにはパラメディックがいた。俺は邪魔な松葉杖を壁に立てかけ、ドアを開けて彼女を部屋へと入れた。
「うんうん、顔色もいいし、食事もきちんと摂っているみたいね」
笑顔を見せながら手を伸ばし、俺の頬を撫でて触診する。医者のする事なのでそのままやりたいようにやらせていたが、頭を撫でられ結局腹が立って振り払う事になった。子供扱いされたようで気に入らない。
「何しに来たんだ。怪我ならもうすぐ治りそうだし、医者の出番はそろそろ終わりだぞ?」
学会の予定が重なっていたとはいえ入院中もろくに顔を見せなかったつれない主治医には嫌味のひとつでも言ってやりたくなる。苛立ちながらさっきまで寝ていたソファーに腰を下ろし、よくよく彼女の格好を見て驚いた。
「……珍しい格好だな」
「年甲斐もなくって、思ってる?」
グレーの地に大きな緑のグラデーションカラーの花の模様が散ったワンピースの裾は短く、柔らかそうなシフォン生地の奥には小さな膝頭と弾力のありそうな太ももが惜しげもなく覗いていた。
「いや、似合ってるさ。いつものパッとしない服よりよっぽどいい」
「……それは褒められているのか微妙な感想ね」
俺の気が利かない言葉にふくれながら裾をくしゃりと握った。座っている俺の視線は目の前にある肉感的な太ももにいとも容易く釘付けになってしまう。
「何しに来たか、知りたい?」
言いながら俺の首にするりと腕を絡め、コーラルピンクで艶やかに染められた形のいい唇が俺のそれへと重なった。唇を割って入ってきた柔らかい舌が俺の口腔をじっくりと犯していく。清楚な外見には似つかわしくない大胆で淫靡なキスに鼓動が高鳴り、少し気が遠くなる気がした。
「先週に予約入れてた診察をすっぽかしたから、出張で様子を見に来てくれてんだと勝手に思っていたんだが……」
「それもあるけど……あの約束、忘れたの?」
言いながら唾液で濡れた唇を手の甲で軽く拭う仕草がやけにいやらしく感じた。俺は記憶を辿り、ある事を思い出して頭を抱えた。
「あれはそのままの意味で言ったんだがな」
「慰めてくれるんでしょう?」
スネークとEVAの再会後、微妙な空気を纏うようになった彼女に俺は確かに「泣きたい気分なら胸ぐらい貸すぞ」とは言ったが……。
「忘れさせてよ、好きにしていいから……ダメ?」
こういう女の口説き文句に何回俺は引っかかるんだろう。罠だと知りつつも好んではまってしまう自分を恨みつつ、俺は彼女の手を取った。
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