★MGS小説

□Little girl
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訓練がようやく終わりシャワーを浴びて部屋に戻ると、鋏の音が聞こえた。
衝立の向こう側を覗きこむと彼女と目が合った。手には鋏が握られていて、小さなテーブルの上には金の髪が散っている。
「いつもそうして自分で切っているのか?」
切られたばかりと思われる毛先は、肩につかない長さになっている。自分で髪を切るなんていかにも切り難そうだが、今の所バランス良く切れているみたいだった。
「まあね」
鏡を覗きながら慣れた様子でさくさくと鋏を入れていく。きちんと手入れされ背中の中ほどまであった長い髪は、だんだんと短くなっていった。
「その長さもなかなかいいな。よく似合ってる」
きりっと引き締まった表情がより際立つようで、本当に似合っていた。
彼女に近寄り切りたての髪を撫でる。滑らかなのにサラサラと手触りのいい感触が心地いい。
「ここまで短くしたのはSASの入隊以来だけれど、たまにはすっきりしていいものね」
くすぐったそうな顔をして俺の手を払い、髪をかき上げる。緩やかなウエーブのかかった髪が目の前でふわりと揺れた。
間もなく臨むあの作戦の為か……俺は鏡越しに見つめ合いながら小さな子にそうするように、彼女の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「なにするのよ」
咎める為の言葉なのに、今日はやけに力なく優しい響きだ。
そのまま立ち上がって、俺の首にしがみつく。
「あんまり可愛い頭してるから、思わず撫でたくなっただけだ」
言いながらギュッとしがみついたままの彼女の背中を擦ると、クスクス笑う気配がした。最近知ったがジョイは意外とくすぐったがりで、触られる事に弱かった。
「小学生の女の子じゃないのよ?」
「そんな事は知ってる」
腕を緩めて俺の顔を見上げる。青い瞳が僅かに揺れた。
「それなら、キスして」
ジョイからそんな言葉を聞くとは思っていなかった。動揺したのはそれだけじゃない。いつの間にか俺の首には冷たい鋏があてがわれていた。
「乱暴な真似をするなよ」
体を屈め柔らかい唇に軽くキスすると、満足そうな顔をして彼女は俺の体から離れた。
「これからは乱暴な事しかできなくなるわ」
鋏をテーブルに置き俺の目を見ながら、当然の事のように言う。その自嘲的な態度がやけにチクチクと心の深い所に刺さるようで、俺は居心地が悪くなった。
「俺も、部隊の皆もそうだろう……なにも君だけじゃない」
俺の言葉はまだ若い彼女にとって嫌味に聞こえないだろうか……俺の心配をよそに、彼女は笑って抱きついてきた。
「ありがとう」
あまりにも素直な台詞と甘えるような仕草に急に鼓動が早くなる。それに気付いたらしく、腕の中で小さな笑い声を漏らした。
「いつもなら何をしてもつまらないくらい平然としているくせに……ひょっとしてこういうのは嫌いなの?」
普段は見せない小悪魔的な態度に翻弄されかけつつ、俺は内心、溜息をついた。
女は魔物だ。

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