★MGS小説

□自由の楽園
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結婚し、一緒に暮らすうちに分かった事は、彼が意外なほどしっかりとした男だという事だった。
英語の他、ロシア語とフランス語、日本語を話し、仕事に直接関係ない文学や歴史についてもよく知っている。
料理の腕前もメリルより数段上だ。日本人の母から教わったという手間のかかる和食も慣れた手つきで作る。

おまけに戦場でも最近はよく気が付き、動けるようになってきた。
あの事件を経てから、ジョニーは目を見張る程の勢いで成長をしている。
だが、メリルはそんな伴侶の急激な変化を穏やかな気持ちで見守る事ができている。
「どうしたの、いきなり」
メリルは肩を並べて歩いているジョニーの手に自分の指を絡めた。
普段は街中でこんな事をしないのでジョニーは慌てているみたいだった。はにかむように笑って言うと、ゆっくりとメリルの手を引く。
自然と体が触れ合いそうな程近い距離になる。そこに流れるのは甘いと表現するより、暖かい日だまりみたいな居心地の良い空気だ。
長い事憧れていた英雄の男の背はメリルにとっていつも大きくて遠く、ただ遠くから憧れて眺めるしか術がなかった。
大事な時に動けず、彼を止めたくても止められず、誰よりも力になりたいのに無力な自分に歯痒い思いを何度もした。
また、若い真っ直ぐな気持ちで精一杯の愛情を示しても、スネークとの距離は縮まる事は最後までなかった。
「理由が必要?」
からかうように言うと、ジョニーは軽く首を振り、掴んでいる手を握り直す。
この腕と背と肩は違うと、メリルは感じていた。
自分の助けをいつでも必要とし、待ってくれる。逆に萎れそうな時は倒れないようしっかり支えてくれる。
メリルを一人しかいないパートナーとして、認めてくれている。
だからAIが崩壊して世界が一旦終わった今でも、メリルは安心して未来に目を向けて俯かないでいられる。
かつて亡くなった父や英雄の影を追って走っていた少女は、もういない。
だがそれは、惜しむべき事ではなかった。
誰にも、どんな物事にも束縛されず未来を二人の意志で紡げる素晴らしい自由に、メリルは心の中で感謝の祈りを捧げた。

蛇である事をやめた一人の男にも自由な時が一時間でも長く続くように、願いを込めて。

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