狂犬と化け猫

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「…叔父貴は何か知っとるんか」
「何だ、真島。気になるのか」

お互い目は会わせずに会話を続ける。

「気にならん、訳ではないが…なんやろ、自分でもわからん」

せやけど、と一息ついて真島はグラスを傾けた。風間がこちらを見ているのが分かった。

「……律ちゃんに言われてん。ワシと律ちゃんは似た者同士やて。狂ってるんはどっちやろ、て。それがなんや気になってな」
「…そうか…律のやつ、そんなことを言ったのか」

からんと音を立てて風間はクラスを傾ける。深く息を吐いて優しい眼差しで律を見つめ頭を撫でる。律は目を覚ます事もなく擽ったそうに頭を動かしただけだった

「…律の言うあの人というのは、恐らく彼女の恋人の事だろう」
「ハッ!そんなことやろうとは思っとったけどな。せやけど、それぐらいでこんなに凹むか?」
「…律にとっては重大なんだろう。私も詳しくは知らないが、ここまで荒れる律は初めて見た」
「それは叔父貴が飲ますからやないか」
「酒に関しては反論しないが…真島、お前律と勝負したんだろう」

風間の視線が鋭くなる。真島は首を縦に振って肯定する。思い出しただけでぞくぞくするほどあの時の事は印象深かった。

「ごつかったでぇ、律ちゃん。女に押し倒されたんはあれが初めてや。それにワシとやり合う前に、イライラしてたから言うてゴロツキを伸してたからなぁ」
「やはりあれは律の仕業か。普段の律ならそんな理由で喧嘩なんてしないんだがな」

ふうんとさして興味なさそうに相槌を打つと真島はウィスキーを飲み干して立ち上がった。気配を察知したのか律がむくりと頭を上げた。ぼんやりと真島を見つめる。

「おはようさん。具合はどや?」
「……真島さん、帰るの?」
「おう、そろそろ帰るで。律ちゃんもあまり飲み過ぎんと、はよう帰りや?」

指通りのいい髪を撫でてやると律は真島の手にすり寄る。

「……ほんま、にゃんこみたいやなぁ…」
「僕も真島さんと一緒に帰る」

まだ酔っているのか、温かい手で律は真島の腰に抱きついた。上目遣いに見つめるその瞳は無表情で、真島はごくりと唾を飲み込む。離れない、と言わんばかりに腕に力を込める律を見て真島は少し面倒くさそうに笑って項をさすった。風間はバーテンにもう一杯頼んで諦めろと言わんばかりの視線を向ける。

「…そうなった律は私にも手に負えん」
「せやから飲ましたんは誰や、言うねん」

しゃあないのうと愚痴を零しつつ真島はしっかりと律の腰に手を添える。エスコートする形で椅子から下ろして立ち上がらせるとふらふらと覚束ない足取りで真島にしな垂れかかる。そのまま入り口まで歩かせた時、背後から風間に呼び止められて真島はそちらを振り向いた。

「……気をつけろよ」

何に気をつけるのか、と聞こうとした真島を律が急かしたので結局答えを聞きそびれてしまった。風間が言った言葉の意味を真島が理解したのはかなり先の話である。
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