狂犬と化け猫

□3。お気に入り
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優しく問いかける風間に律はどう答えていいのか分からず目を泳がせる。視線を足下に落として小さく息を吐く。僅かに潤んだ瞳の奥に悲しみがちらりと浮かんで消えたのを真島は見た。律は顔を上げると喫茶店で真島に向けた笑みを二人に向ける。にこりと可愛らしく首を傾げれば、親父二人は僅かに頬を赤らめた。真島の目尻が引きつり眉間に皺が寄る。

「…いつもの気紛れです。家にいても窮屈で息がつまります。それにあそこにはもう退屈しのぎになる人間がいません」
「律は強いもんなぁ。うちの真島も、押し倒されたらしいからなぁ」

なぁ真島、と視線を寄越す嶋野に真島は生返事をする。隻眼は先程嶋野が言った通りじっと律を見つめたままだ。鋭い視線を向ける真島の方を律は一切見ない。

「…律、今日は特に行く当てがないんだな?」
「真島さんが事務所に泊めてくれるらしいですけど」

ですよね、と顔は真島に向けていたがやはり目は合わせなかった。そんな二人のやり取りを風間は静かに見つめる。風間の視線に気づいた真島がそちらを見ると僅かに頷いて嶋野に財布を渡した。

「真島、もう少し付き合え。律ももう飲める年だ、いい店を紹介してやろう」
「わしは帰る。今朝早くから仕事しとったから眠いねん。律、今度ゆっくり飲もうや」

嶋野はひらひらと手を振ると風間の前に財布を置き寿司吟を出た。
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