狂犬と化け猫

□3。お気に入り
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店の前で待ち合わせをしていた嶋野と風間は、律と真島を連れ立って寿司吟に来ていた。店を貸し切りにしているらしく、四人の他には板前と女将しかいない。旨くて高い寿司を食べる事ができたまでは良かったのだが、四人とも満腹になった所で箸が止まり無言になってしまった。

「何でワシまで一緒やねん」

俯く律とそれを見つめる風間、爪楊枝で歯間掃除をする嶋野をそれぞれ隻眼で見やり、真島はつまらなそうに呟く。恐らく嶋野と風間は、昨日今日知り合った真島とは比較にならない位には律を知っている。しかも先程の律と嶋野のやり取りを見るに、会うのも久しぶりなのだろう。ならばつもる話もあるだろうから、三人水入らずで食事をすれば良かったのではないだろうか。
考えていた事が顔に出ていたのか、嶋野と目が合った瞬間に鼻で笑われた。

「なんやねん、親父」
「自分今、居らん方がええんちゃうかって思っとったやろ」

さすがは自分の親である。本当の親子ではないにしろ、どこかしら似ている所があるのだろう。お前の事などお見通しやと言わんばかりににやりと嶋野は笑った。

「…律の事気に入っとるんやろ?」
「は?」
「お前、分かり易いねん。事務所に居る時から殆ど律しか見てへんやないか。ま、律の戦いっぷり見たら当たり前やけどな」

違うか?と問いかける嶋野に真島は反論しようと息を吸い込んだが、それを遮るかのように風間が口を開いた。

「大きくなったな、律。綺麗になった」

慈しむような視線を向ける風間をちらりと見て律は僅かに頬を赤く染めて、はにかむような笑みを風間に見せた。真島は隻眼を細めて様子をうかがう。

「伯父様こそ、お変わりなく、素敵です」
「何や、律、ワシは素敵やない言うんかいな」
「あ、や、そんなことはないですよ」

嶋野が少し不機嫌そうに言えば、律は顔の前で両手を振り一生懸命否定する。その仕草が面白いのか嶋野は大声で笑った。

「冗談通じんのも変わっとらんな」
「そこが律の面白い所であり、可愛い所だな」

嶋野と風間の言葉に律の顔は最早林檎のように赤い。甥っ子を甘やかす親戚の伯父さんのような二人の姿に、真島は苦笑を浮かべた。

「しかし、律。何故一言言ってくれなかった。連絡をくれれば迎えを寄越したのだが」
「…ごめんなさい。急だったもので…」

本題に入ったことに気づいた律の瞳に動揺の色が浮かぶ。視線を反らした律を責める事なく風間は静かに続けた。

「…何かあったのか?」
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