狂犬と化け猫

□3。お気に入り
2ページ/7ページ

「……大きゅうなったな、律」
「…嶋野の伯父様もお変わりなく」

律は男を見て一瞬驚いたが姿勢を正して深々と嶋野に向けて頭を下げた。二人が知り合いという事に少なからず驚く真島。律の隣に腰掛けると大きく足を開いて両膝の上にそれぞれの肘をのせて嶋野を見た。

「親父と律ちゃんが知り合いて、どういうことや?」
「何や、知ってて連れてきたんやなかったんか」
「知っとったらもっと早く連れてきとるわ」
「ま、そうやろな。で、律はなんで神室町におんねん」

嶋野がぎろりと鋭い視線を向けると今まで一切怯える仕草を見せなかった律がびくりと肩を震わせて俯いた。真島は少しだけ首を傾げて俯いた律の顔色を伺う。律はきつく唇を噛み締めていた。瞳には悲しみの色がありありと浮かんでいる。

「…風間も心配しとったで。あっちはお前の親からの電話がひっきりなしみたいや」
「……ごめんなさい」

俯いたまま呟いた声はひどく震えていた。今にも泣きそうな声に嶋野は盛大に溜め息をつく。律の肩が再びびくりと震える。嶋野はそれに気づいて大きな手を律の頭に置いた。先程までの厳しい表情はどこへやら、孫を見る祖父のような穏やかな顔で律の頭を撫でた。今まで見た事のない嶋野の表情に真島はぽかんと口を開ける。

「中身は変わっとらんな。相変わらず怖いか」

何が怖いのかあえて言わなかった嶋野の発言で、律と嶋野の仲が短い期間で形成されたものではない事に気づいた真島。空いた口が塞がらないまま、瞳だけは羨望の色を宿していた事にこの時の真島はまだ気づかない。

「…ま、詳しい事は飯食うてからや。風間も呼んどるから話はそっからや」

ほな行くで、と嶋野は足早に事務所を出て行った。律はちらりと真島を見た後嶋野の後を追いかけ事務所を出て行く。その背中を見つめていた真島だったが、嶋野の怒号を聞いて慌ててその後を追いかけた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ