狂犬と化け猫

□5。狂気の深層
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浅い呼吸を繰り返す律を真島はバッティングセンターに連れて行った。入り口に座らせると西田に車を回すように連絡する。携帯を切った所で真島のジャケットの裾が引っ張られた。

「どないした?」

上目遣いに見つめる律の瞳は相変わらず高熱を出したように潤んでいる。据え膳食わぬは男の恥とはいったものの、薬に冒されている律は本当の律ではないので色んな意味で嘘が嫌いな真島は彼女の様子に欲情する事は無かった。普段の真島なら絶対に見せないであろう優しい瞳で律を見る。律は乾いた唇を一舐めして口を開いた。

「…風間の、叔父様に…連絡を…」

はぁと切なげに息を吐くと律は自分のジャケットから携帯を取り出して真島に差し出した。少しだけ眉間に皺を寄せてそれを受け取ると、自分の携帯から風間組事務所の番号を出して打ち込む。数秒コールした後にハスキーな声が答えた。

「あー、柏木か?」
『その声は真島か。何の用だ』
「なんやその言い方は。まぁええわ。叔父貴、おるか?」
『おやっさんに何の用だ』

柏木とのやり取りに少しだけ苛立を覚えた真島は律を見て気持ちを落ち着かせるようにゆっくりと息を吐いた。空いている手を律の頭に置いて撫でると律は猫の様にその手にすり寄る。そして律は真島の手に自らの指を絡めた。爪が食い込む程強く握られた手に、律の理性も残り僅かだと言う事が分かる。小さく舌打ちをして真島は続けた。

「おるんかおらんのか、どっちや!」
『そう目くじらを立てるな、真島。どうした、律に何かあったのか』

何時の間に代わっていたのか、電話の向こうから聞こえる渋い声は確かに風間のもので真島は少しだけ緊張を解いた。しかしまるで何が起きたのか分かっているような物言いに真島の眉が吊り上がる。

「…律ちゃん、薬盛られたらしいねん。叔父貴に連絡せぇ言われてん」
『今、どこだ』
「神室町のバッティングセンターや」
『とりあえず俺の事務所に連れてこい』
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