狂犬と化け猫

□4。血と熱に浮かされて
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翌日、律は真島に置き手紙を残して事務所を出た。まだ薄暗い神室町を歩けば、すれ違うのは酒臭いサラリーマンや若者、疲れた顔をした夜の蝶達。繁華街の朝方はどこも変わらないんだな、と律は苦笑を浮かべてジャケットのポケットに手を突っ込むと少し背中を丸めて歩き出した。

「…とりあえず、塒に戻ろう…」

バッティングセンターの方に足を向ける。人の波を縫って歩いているとふと視線を感じて律は足を止めた。傍にブランドショップの大きなウィンドウがあったので髪型を直す振りをして、律は背後を伺う。黒スーツの男が電柱の影から鋭い視線を律の方に向けていた。律の表情がすっと消える。再びポケットに手を入れて今度は背筋を伸ばして歩き始めた。

人込みから抜けて入り組んだ路地をわざと歩く。自分の足音から数歩遅れて別の足音が聞こえる。律は面倒臭そうに溜め息をつくと気付かない振りをして喫茶店に入る。階段を駆け上り素早く中に入ると息を潜めてドアの横に立ち、脇のホルスターに手をかけた。こつこつと階段を上る音がする。静かに安全装置を外して拳銃を構えるとかちりとドアノブが動いた。

「気配は消して近付けと、あれ程教えたはずですが?」

米神に銃口を当て男の動きを止める。鋭い律の視線に男は小さく息を飲む。視線をカウンターに向けて男をそちらに促せば、男は両手を上げてそちらへ向かう。背後に銃を突きつけてドアを閉めようと後ろ手を回した瞬間、薄暗い階段からにゅっと手が伸びて来た。

「っ!」

手首を引っ張られ体勢を崩した所に目の前男が回し蹴りを繰り出して来た。ぱしっと音がして律の手から拳銃が落ちる。手首を掴んだのは目の前にいる男と同じ黒スーツの男で、引っ張った勢いをそのままに律を引き寄せると反対の腕で首を絞めるように押さえ込む。喉笛に感じる圧迫感に、律は顔を歪ませる。

「探しましたよ、お嬢。全く、世話が焼けるお人だ」

ぐい、と腕で上を向かせると律は律の耳元で囁く。耳にかかる生暖かい息遣いに律は嫌悪感をむき出しにする。男の腕を掴みぐっと力を込めると目の前の男がにやりと笑って律の太腿を掴んだ。

「おっと、そうはいきませんぜ、お嬢」

するすると厭らしい手つきでスカートをたくし上げ両足のホルスターからドスを抜き取る。そのまま手を下に滑らせて男は律が履いていたブーツを脱がした。ち、と律は舌打ちする。

「蹴りを入れられて、玉ァ潰されたくないですからね」
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