狂犬と化け猫

□3。お気に入り
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行く当てがない律は一旦真島の事務所に避難する事になった。事務所に着くなり真島は革張りのソファにどかりと座り長い足を投げ出し、背もたれに首を預けると大きく息を吐く。そして向かいの椅子にちょこんと座った律に真島は問いかけた。

「なぁ律ちゃん、さっき言うとった身内かもしれへんて、どういうことなん」
「あー、あれねぇ…」

真島の言葉に律は頬杖をつき手持ち無沙汰に爪をいじりながら視線を反らした。真島は隻眼でじっと律を見つめる。熱い視線にたまらなくなったのか、律は深くため息をついて口を開いた。

「…跡目争いって言うのかなぁ、まぁそんな感じ。先代も認めてるんだけど、外野が五月蝿くて」
「なんやややこしい話やな」
「何が気に食わないのか僕にもさっぱり分からない」
「…律ちゃんが帰らんからとちゃうか?」
「毎日刺客が現れて、毎日毒味担当が死んでいく家に帰りたい?」
「毒味担当なんておるんか!」

突っ込みどころはそこじゃないでしょ、と律が冷静に言えば真島はヒヒと笑う。

「律ちゃんて、お嬢様やったんか」

あーとため息とともに少し残念そうな声を出すと真島は天井を見上げた。律もそのまま俯いて自分の靴先を見つめる。二人の間にしばし沈黙が訪れた。再び先に口を開いたのは真島だった。

「……律ちゃんがええんやったら、しばらくウチにおってもええで?」

首だけを律の方に向ける。律は苦笑を浮かべると首を左右に振った。

「そんな事したら真島さんの事務所、三日と待たずになくなっちゃうよ」
「うひゃひゃひゃ!冗談言うてもきついで、律ちゃん。ワシんとこは東城会の中でも武闘派な方なんやで」

体を起こしてばしばしと自分の膝を叩く真島に、律は眉尻を下げてため息をついた。そのため息を合図にしたかのように事務所の扉が開かれる。熊のような大男が入り口に立っていた。大男を見た真島が弾けたように立ち上がる。

「なんやねん、親父。来るなら連絡よこしてぇな」

行動とは裏腹に真島は気怠そうにその男に話しかける。男は真島を一瞥してふんと鼻息を漏らすとどかどかと大きな足音をたてて律の向かいに腰掛けた。
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