「え?お礼…ですか?」
クリクリとした可愛らしい目をパチクリさせ、首を傾げるのは二年い組の池田三郎次。
彼の視線は、また突拍子もない事を言い出した委員会の先輩に注がれてている。
「うん。何でも良いよ。三郎次には色々迷惑かけたからな。」
昨日はごめんなと謝る委員会の上級生、五年い組の久々知兵助に三郎次は手と首を振って訂正する。
「いや、迷惑だなんてそんな…」
当番制の委員会の仕事は本来なら三郎次は昨日は休みの日だったが、当番だった久々知とタカ丸が急にお使い・実習で学園を不在、
更に一年は組はお得意のトラブルに巻き込まれて全員学園にいなかった為、急遽三郎次だけで委員会の仕事ををする事になった。
その事を非常に申し訳なく思った久々知は、三郎次に礼がしたいと言い出したのだ。
しかし、三郎次は上級生になれば、学園を不在にする機会が多い事は知っていたし、その時は先輩達の代わりに仕事をするのは当たり前だと思っていたので、謝られた事に正直驚いていた。
更にお礼をしてくれるという申し出には、昨日はいつも通りの在庫点検だけで大した事をした訳ではないので、何だか居たたまれない気持ちになる。
という訳で、申し出をやんわりと断ったが相手にその思いは通じなかったらしい。
「年上の言うことには素直に甘えて良いとけ。何が良い?」
久々知はそれを遠慮と受け取り、検討違いの言葉をかけてくる事に三郎次は戸惑った。
本当にお礼なんかいらないのにな…
そう思いつつも、こちらを見る先輩の視線がじっと回答を待っていると訴えるようで、とてもじゃないけど断れる感じがしなかった。
さて、何て言えばこの先輩は納得してくれるだろう。
三郎次は頭を悩ませた。
「難しく考えなくても良いんだぞ。団子が食べたいとか、夕食のおかずを一品多めに欲しいとか…」
もちろん今度の委員会当番は変わるけどなと笑う久々知の姿に三郎次の頭の中で1つのお願いが浮かんだ。
でも、こんな事頼むのはどうだろうか?
もしかしたら可笑しい奴だと思われるかもしれない。
でも、何か言わないとこの先輩は納得してくれなさそうだし。
三郎次の頭の中を色々な思いがぐるぐるグルグルと回りついには頭を抱えだした。
「どうした?三郎次?」
そんな後輩の様子を見て、心配そうに顔を近づけてくる久々知に三郎次の心臓が跳ねた。
この吸い込まれそうな大きな瞳に間近で見つめられるとドキドキが止まらなくなる。
「えっと、じゃあ…」
「ん?」
−笑って下さい−
「あ、いえ。何でも…ないです。」
喉まで出かけていた言葉は簡単に飲み込まれ、次いで出てくるのは本音とは違う言葉だった。
「その、ほんとにお礼とか良いので気にしないで下さい。」
お使いという忍務から帰ってきた先輩は、いつも無理して笑っているように見えて、胸がズキズキと痛くなる。
大好きな先輩の偽りの笑顔なんか見たくない。
だから
−本当の心からの笑顔を、僕にだけ見せて下さい−
今の僕にはまだ、そんな事言えるほどの力と勇気はなかった。
13“私にだけ笑ってみせてよ”
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一二飛ばして三のお前様に提出させて頂きました。
素敵な企画に参加させて頂き、有難うございました(*^^*)
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