夢小説

□エプロン
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今夜も野分は遅い……
だから、今から作っておこう、ビーフシチューを。


弘樹は、一晩煮込んだ牛肉と、材料を鍋に入れて煮込み始めた。

この姿…野分は喜んでくれるだろうか。

先日のフリフリエプロンは、結局あの後すぐに野分の病院からの呼び出しがあり、不発に終わった。
その後はタイミングが合わず、弘樹も野分もあえてこの話題には触れず、三日が過ぎた。
だが、今日は帰れる予定だと、野分から弘樹へメールが届いていた。

俺が夕飯作ってエプロンしていたら……絶対に野分は喜ぶはずだ!!一度約束したんだ、男に二言はない!!

弘樹はエプロンをしたまま、勢いよくソファに座り、テレビをつける。

……野分と一緒にDVDを見ようと思って買った57インチのテレビ。前回一緒に観たのなんて、いつだっただろう。

ふうっ、と、弘樹は溜息をついた。

帰れる…予定。予定はあくまでも予定だ。メール一通で、すぐに覆されてしまう。それでも野分がホントに残念そうにごめんなさいって言うし…病人が待ってるんだから、帰ってこいとか行くなとか言えねーし……。

なんだか少し口寂しく感じた時、ふと視線の先に赤ワインがまだ残っているのが目に入った。

「ただいま、ヒロさん!!」

野分が息を切らしてドアを開けた。

「早く終わって良かったです」

そう言いながら足早に部屋へ入ると……弘樹がソファで横になって寝ていた。

「っ………ヒロさん……………」

野分は言葉が出なかった。まさか、まさか、弘樹が自分からエプロンをつけてくれるなんて思っていなかったからだ。更に、両手を頭の後で絡め、膝を折って寝ている姿は、誘っているとしか思えなかった。

足音で目を薄く開けた弘樹の第一声は

「野分……寂しかった」

野分は思わず駆け寄って強く弘樹を抱きしめる。苦しがる弘樹は、どうやら目が覚めたようだ。しどろもどろでエプロンの言い訳をし始めた。

「えっと、今日は、ちょっと気分を変えてだな、つまり、その。一度決めたことは、やっぱり、その、やらないといけないだろ?」

その慌てた様子を見て野分は可笑しくなったが、笑ったらこの人は絶対に怒り出すと思って我慢していた。

「それに、野分は俺に付けてほしかったんだろ?俺…野分の言うこと何でも聞くからさ……もう少し、こうしててくれよ……」

弘樹の言葉に野分は一瞬耳を疑ったが、テーブルの上にワインの瓶が何故か二本カラになっているのを見て合点がいった。

「ヒロさん……寂しくて飲んじゃったんですね?」

「だって、お前がいないんじゃ、テレビだってお風呂だってつまんないんだよ」

「俺、帰ってきましたよ」

「うん……だから俺、ずっとこうしてたい」

「それじゃ、襲えないですよ?」

「だから、ベッドでギュッてしてくれよ」

野分は、喜び勇んでお姫様だっこして連れて行く。
そしてもちろん携帯で写真を撮ることも忘れなかった……。


終わり
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