夢小説
□携帯
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弘樹は桜見物の人達で賑わう雑踏の中を急いでいた。
(ヤバい、待ち合わせに遅れるっ!)
今日は野分と夜桜見物に行く予定なのに、希少本が入荷したとの連絡で、急に古本屋に寄ることになってしまったのだ。時間ギリギリで間に合う筈だが…?
いつものファミレス、いつもの窓際の席に、野分が頬杖をついて携帯電話を開いていた。少し息を整えてから店内に入る。
「待ったか?悪かったな!」
そう言いながら対面に座ると、野分は弘樹に気づいていなかったようで、瞬時に携帯をパチンと閉じた。
「あっ!ヒロさん!…俺も…さっき来たところです。」
「今何時?」
「えっと…待ち合わせ時間よりは前ですよ、たしか」
…手にしている携帯で分かるだろう?なぜ見ようとしない?
―――またか―――
今朝も出がけに携帯を渡してやろうとしたら、すっ飛んで来て自分で取ったし。なんだか最近、携帯をいじっている事が多い。
「あの…ヒロさん?軽く食べますか?」
「いや、たまには屋台で食おうぜ。コーヒーだけにしとくわ」
弘樹は、野分がわざとテーブルの端に置いた携帯に対して、見て見ぬフリをする。
無言の弘樹をいぶかしそうに見つめていた野分が、近づいたウェイトレスに目をやったその時、
「わり、やっぱちょっと時計見せて」
ヒョイと手を伸ばして、携帯をパチンと開ける。