夢小説

□年上だから
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野分を迎えに行った俺がバカだった。

相変わらず待ち合わせはファミレスだったが、宮城教授の手伝いが早く済んだのと、
いつもあいつは走ってくるから、走る距離を軽減させてやろうなんて優しい考えを珍しくしたからだ。
……俺が野分に早く会いたかったからだけど…そんな事言うはずもない。

病院内の本屋に寄り、ふと通路を隔てた医者達も使うレストランを見ると、
なんで気がついてしまうんだ、俺は!
白衣の野分と津森ってヤツが談笑中。

…来るんじゃなかった…
津森のことを、野分の仕事仲間なんだ、先輩なんだと頭で分かっているのに、気持ちがついていかない。
俺、どうしちまったのかな…。
見つからないように本屋を出て、ゆっくりとした足取りでファミレスへ向かった。

ファミレスの窓際の席で、さっき買った本を読み始める。
が、ちっとも頭に入らず、浮かんでくるのは野分と津森の笑顔……。
なーんで俺が気にしなきゃならないんだっ。遠慮するのは津森ってヤローのほうだろ?俺と野分の関係を知ってから、事あるごとに一言多いんだよ!
まったく…一泡吹かせてやらないと気が済まん!!

コーヒーが飲み終わったその時、仲良く連れ立って歩いてくる2人を見つけた。ファミレスより少し前の曲がり角で、野分は半分こっち向き、手も上げているのに、津森に引き留められている感じだ。

…これって、チャンス?たまには俺がからかってやれ!

俺はファミレスを出て、ゆっくり歩いて近づいていく。50メートル位なのに、全然気がつかないのが逆に可笑しい。5メートル手前で俺は声をかける。
「野分!走るぞ!」
2人が振り返り、津森がポカーンとしている横を、野分の手を取って全力で走り出した。
「あっ、待って、ヒロさん!」
俺の両足は軽い。野分はビックリした顔をしているが、ちゃんと一緒に走ってくれている。まさかこの俺が、連れ去るような事をするなんて、思わないだろ?それも全力疾走だぜ!!

追い風も手伝って、足が止まらない。胸がドキドキする。一気に公園まで走り抜き、青と緑と茶色で目の前がクラクラする。
俺達は、息を整えながら家へ向かって歩きだす。

「ハアッハアッ…見たか、あの津森の顔!」
俺がニッコリ野分に微笑むと、
「驚きました…」
同じように息を切らした野分が、優しい笑顔で答える。
「ヒロさん、ヤキモチやいてくれたんですね。嬉しいです!」
え?
「ちっ違うぞ!俺はちょっとからかってやりたいと思って!」
クスッと笑った野分が言う。
「いたずらっ子みたいで…可愛いヒロさんをまた見つけてしまいました。もちろん俺は、ヒロさんに、どこまでも付いて行きますよ?」

かーっと血が上るのが分かった。ホントに…恥ずかしいヤローだぜ。俺は言葉に詰まってうつむいてしまった。
…年上の俺が、余裕を持ってからかってやったつもりだったが…独占欲からだったのか?それに、真っ昼間に男同士で手を繋いで走るなんて…よく考えなくても、失態だよな…。なんだか急に恥ずかしくなってきた。
「…ヒロさんとかけっこ…楽しかった…」
野分は無邪気に喜んで俺を見ている。
そして部屋に入った途端、野分の手にも力が入る。俺は動けるはずもなく。
「嬉しかった…ヒロさんから僕を捕まえに来てくれるなんて」
「…俺はそんなに薄情じゃねーぞ?」
「そうですよね…俺、この手を離しません」
野分が指を絡ませる。
そしてシャツの裾からもう片方の手をすべらせ、俺の体を弄り始める…。
「えっ?今、汗かいたから…ちょっと、野分?」
「ヒロさんのいい香りがしますから、いいんです」
野分が俺の髪に顔をうずめる。いいんですって…俺はよくない!
なのにこの声で、いつもの冷静なはずの俺がダメダメになるんだ。
「でも…ここじゃ…」
野分は分かってるくせに、言うことを聞いてくれない。野分の大きい手が俺の胸をつまみ、遊び出す。
「アッ…アッ…んっっ……」
「ここがいいんですよね。知ってるんですよ。もっと、って言ったらいじってあげますよ?」野分はたまに意地悪を言う。
「だっ、誰が!…くっ!」
だが…久しぶりの野分の香りが身体中を包み込み、つい答えてしまいそうだ…。
「ん…も…ダメだろ…」
振りほどこうとして身をよじると、強い力で抱きしめられ、素早く口を塞がれてしまう。
「…本当はダメじゃないですよね…」
ああ…俺は…捕まってしまったようだ…。
どんどん深くなるキスで、身体が溶けていく。野分を掴んでいなければ、どこまで墜ちていくか分からない。

カーテン越しに見える緑と青の景色に、白が混ざっていき、俺は「もっと…」と…言わざるを得なかった。

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