めいん  

□桜ノ雨
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「ねぇ遊星、暖かいし外へ出てみない?」
今日はいかにも春というに相応しい陽気で、たまにそよぐ南風が木々を揺らすのは、みているだけで気持ちがいい。

「外…か。そうだな、デートでもしに行くか」
「デ、デートっ!?…って、まあ今さら照れることでもないわよね」

それでも動揺してしまう自分がいた。恥ずかしくて、仕方がなかった。

…だって、散歩みたいなつもりで言ったら、いきなりデートなんて言うんだもの。二人で散歩をしていたら、それはデートになるのかもしれないけど…。

「で、どこへ行くんだ?」
「うふふ、それは着いてからのお楽しみよ」


しばらく歩いて、広い公園のような所に着いた。そこには桜が咲き誇り、人手もかなりあった。

「…きれいだな。」 「えぇ…。」

アキは前からこの場所が気になっていた。桜の木が沢山植えてあったのを見ていたからだ。

桜は咲くときれいなのは知っているのに、なんだか桜を初めて見たような感動を覚えた。桜って、こんなにもきれいだったのかと、思わずはっとさせられてしまう。

「もっと近くへ行ってみるか」

そう遊星が言うので 近付いてみる。

…もっときれいだった。想像なんかより、もうずっと。

「アキ、手を繋いでいいか?」
「えぇ、いいわ」

そして、アキは夢見心地な様子で言った。

「…ねぇ遊星、この桜はもう散ってしまうけれど、来年はまた咲くわ」
「そうだな。きっと毎年咲くだろう」
「そうしたら、来年も見に来ない?来年だけに限らず、再来年もそのまた来年も。二人で、手を繋いで…。」
「ああ。そうしようか…。…あ。」

少し強い風邪が吹くと、桜が一気に沢山舞った。そう、「舞った」のだ。

それはまるで雨のようだった。一枚一枚可憐に舞って、地に落ちる。

桜の美しさに見とれていた二人だが、アキの言葉は言うなれば永遠の誓い。桜のおかげで、気持ちを言えたのかもしれない。

そんな二人の周りを、優しく、温かく見守るように桜ノ雨が降る。

ある春の1日の、だれもが幸せになれるような暖かい日の出来事であった。
 

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