初恋迷宮
□プレゼント
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婚約者騒動もひとまず収まり、平穏な日常を送っていた6月初旬。
獄寺は寮の自室で男性向けのファッション誌と睨めっこしていた。
そんな獄寺を、同室の雲雀はため息をつきながら眺める。
そもそも、獄寺と雲雀が未だに同室なのには色々と訳があった。
獄寺を女性だと認知し、あまつさえ好意を抱いている雲雀といつまでも同室にさせるわけにはいかないと反対したのは沢田と六道で、獄寺も最初こそは雲雀の気持ちに遠慮して部屋を移る事を選んだ。
だが、雲雀の「獄寺が男を振る舞う限りは男として接する」という言葉を信じ、現状維持することになったのだ。
沢田は最後まで反対していたが、六道は意外とすんなりと身を引いた。
本人曰く、同室でいいイコール、全く男として意識されてないのなら安心だと言うなんともムカつく理由で。
まぁ、理由はどうあれ雲雀にとっては好都合だ。
六道に完全にリードされてしまっている現状では、少しでも多く獄寺の側にいたい。
雲雀にとっては獄寺の父よりも、獄寺の心を掴むのが最優先なのだから。
(だからって…)
今の獄寺を見ているのはちょっと辛いかもしれない。
獄寺が見ている男性向けのファッション誌、それは自分の為のものではなく、六道の誕生日プレゼントを選ぶのに利用されていた。
「なぁ、雲雀ー。骸ってどんなのあげたら喜ぶと思う?」
「知らないよ」
というか知りたくもない。
第一、僕は獄寺が男を振る舞う限りは手を出さないと言ったんだ。
だけど、今の獄寺は完全に恋する乙女だ。
その事実が悔しくて、ムカつく。
「なんでもいいんじゃない?」
「え?」
「君がそうやって必死になって選んでる事に意味があるんだよ。君が選んだ物なら、六道はなんでも喜ぶんじゃない?」
本当は、こんなアドバイスなんてしたくない。
六道の誕生日なんてめちゃくちゃにぶち壊してやりたいくらいだ。
だけど、僕の誕生日の時とこの間の婚約者騒動で六道に二つも借りを作ってしまった。
このまま借りを作りっぱなしなのはシャクだ。
「そう…かな」
「うん」
「……そっか。ありがとな、雲雀」
獄寺の笑顔が向けられてるのは確かに僕なのに、それは全部六道の為。
分かっていた。
婚約者騒動で少しは獄寺の心に入れた気がしていたが、これが僕と六道の差。
今の僕では、勝ち目はない。
「明日の放課後、町で色々見てくるな!」
「………うん」
でも、諦めるつもりはない。
こんな差、直ぐに埋めてやるから。