初恋迷宮
□好敵手
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朝日が昇る。
結局一睡も出来なかった雲雀は、次第に明るくなっていく外の風景を黙って見つめていた。
どんなに辛くても、必ず朝はやって来る。
僕の今の心情とはまるで正反対だ。
『みーどーりーたなーびくー』
その時、突然鳴り響いた並中の校歌。
僕の携帯の着信音だ。
こんな朝早くに電話なんて、非常識にも程がある。
でも、もしかしたら獄寺からかも、なんて一抹の希望を持って携帯を手にすると、ディスプレイに印されていたのは見知らぬ番号。
獄寺ではなかったのかと小さく溜息をつきながら、僕は通話音を押した。
『おはようございます、雲雀君』
「……六道」
なぜ僕の携帯番号を知ってるんだ、という疑問は湧かなかった。
僕だって、調べようと思えば簡単に調べられるし、六道にとっても朝飯前なのだろう。
「なに」
『そう不機嫌にならないで下さい。君にとっても利益のある話ですよ?』
「だからなんなの」
何故か余裕のあるような六道の態度に、僕はイラツキを覚えた。
この男はいつもそうだ。負けず嫌いなのは僕と大差ないはずなのに、焦った様子を他人には見せない。
いつだってドンと構えている所を見ると、自分が子供っぽいのだと思い知らされる。
『隼人君が……朝一で此処を出ていく事をご存知ですか?』
「っ…なん、だって?」
昨夜別れた時、そんな事は一言も言っていなかった…。
わざと、黙っていたのか?
『その様子では、流石に知らなかったようですね。
ディーノさんから直接聞いた事なので間違いはないですよ』
「っ……それが本当だとして、どうして僕に教えてくれるのさ?」
昨日、六道が知らなかった獄寺の事を僕は教えなかった。
敵に塩を贈るなんて事はしたくなかったからだ。
『君と僕は、違いますから』
「っ……随分余裕なんだね?獄寺が僕より自分を選ぶ自信があるんだ?」
ムカついた。
なんなのそれ?まさか、僕に同情でもしたの?
『……自信なんて、ありませんよ』
「え?」
『自信なんてありません。僕は雲雀君が怖いです…。いつか、隼人君の心を……奪われるんじゃないかとね』
「だったら…どうして?」
『言ったでしょう?君と僕は違うと。それは気持ちではなく、立場の事です。
雲雀君もご存知でしょう?僕の父のことを…』
「っ!?」
確かに、獄寺が家やボンゴレを捨てない限り、六道と獄寺が結ばれることはない…。
『僕は今よりもっと、隼人君に相応しい男にならなければいけません。
だからここでライバルにリタイアされては張り合いがなくて困るんですよ。
君を踏み台にして僕は、もっと上を目指す』
その言葉に、僕は返す言葉を失った。
『その様子では、隼人君にフラれたのでしょう?
諦めるんですか?その程度だったんですか、貴方の気持ちは?
なら、踏み台にする価値もありません』
そして通話が切れ、虚しく電子音が流れた。