夢想恋華
□エピローグ
1ページ/2ページ
「恭さん、明日は日本政府との面会が…」
「全部キャンセルして」
「え…あ、はい!」
雲雀と獄寺が付き合い始めて、10年の月日が経った。
過去に白蘭との戦いで見た未来と同じように、雲雀は並盛で風紀財団を設立し、滅多に日本を離れる事はない。
「ちょっとイタリアに行ってくるから」
ただ一つ、例外を除いて。
*エピローグ
例えばどんな未来でも*
既に通い慣れてしまった、イタリアボンゴレ本部。
雲雀は真っ直ぐにとある部屋に向かい、ノックもなしに扉を開いた。
「隼人、いるんでしょ?」
「……お前、ノックくらいしろっていつも言ってんだろ」
そこは、ボンゴレ嵐の守護者に与えられた私室。
資料が山積みになったデスクと、仮眠を取るためにあるベッドしかないシンプルな部屋に、獄寺は横になっていた。
「沢田から連絡貰ったよ。なんで僕に知らせてくれなかったの?」
雲雀はベッドに腰をかけ、そこで横になっている獄寺の髪に優しく触れた。
「…この程度の事でお前に頼ってたら、この先どうすんだよ?」
あの日から、獄寺の予知能力はどんどん力を増していた。
学生だった頃はほとんど悪夢を見る事はなかったが、沢田がボンゴレ10代目に就任し、本格的にマフィアとして活動するようになってからは、日に日に悪夢を見る頻度が上がっている。
「今回は、君の部下だってね」
「ああ。………守れたと、思ったんだ」
まるで涙を隠すかのように、獄寺の腕が目元を隠す。
「夢で予知して…だからアイツには任務に参加させなかった。確かに未来は変わったはずなのに…」
獄寺の部下は任務中に命を落とす未来だった。
だから獄寺はその部下を任務から外し、自宅待機を命じた。
しかし、民家にマフィアが乗り込んで来たとの情報を聞き、上司に似て無謀なのか勇敢なのか。単身乗り込み………そこで相打ちになり命を落とした。
確かに獄寺が予知した未来とは違う結末になった。
だが、結局その男の命は儚く散ってしまったのだ。
それが雲雀が綱吉から聞かされていた事実だ。
「未来を変えるのって、単純じゃないんだな…」
「………」
これまで獄寺は、何人もの部下を失っていた。
もちろん、獄寺の予知のおかげで救えた命の方が多い。
だが、獄寺にとって。救えた命よりも、救えなかった命の方が重くのしかかっている。
「君が悪い訳じゃない」
「……そんなの、分かってるけど」
理屈じゃないんだ、と獄寺は小さく呟いた。
目を伏せてはいるが、その瞳から涙が流れる事はない。
10年前のあの日から、獄寺は雲雀にすら涙を見せる事はなかった。
恐らく獄寺にとっては今も昔も、弱みを見せられるのはただ一人……という事なのだろう。
獄寺の気持ちを疑った事はないし、獄寺の心に今もなお鮮明に残る彼女に嫉妬の気持ちもない。
だが少し、やる瀬ない気持ちになる。