夢想恋華
□サヨナラ、初恋
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半ば逃げるように、俺は屋上を飛び出した。
後ろから雲雀の「諦めないから」という言葉が聞こえて、涙が溢れ出た。
だけど、振り返らない。
振り返ってしまったら、俺の心が雲雀に捕われる。
そんなことあってはならないんだ。
俺の心は10代目と、アイツの為にあるんだから。
「……隼人?」
「っ……跳ね、馬?」
宛もなく廊下を走っていると、見慣れた金髪が目に入る。
それが、今朝まで一緒にいたディーノであると気づくと、俺はゆっくりと足を止める。
「ど、どうしたんだよ!?なんで泣いてんだ!?恭弥と逢わなかったのか!?」
「ディー、ノ」
多分ディーノは、雲雀の気持ちを知っていたんだ。
だから俺の背中を押してくれた。
そして、雲雀の背中も押したのだろう。
俺達の幸せを、願ってくれたんだろう…。
なのに、
「ごめっ…ディーノ、俺…」
「ちょっ、隼人!?とりあえず場所移動しようぜ?な?」
そう言ってディーノは俺の手を取り、状況を察したのか屋上から離れた中庭へと連れて来た。
ここなら、応接室からも見られないという判断だったのだろう。
「で?どうしたんだ?」
「………雲雀に、告白された」
「え?でも…」
「雲雀、アイツじゃなかったんだ」
「なっ!?」
「今日会ったアルコバレーノの風って奴がアイツにそっくりで、…俺と同じ夢を見てるみたいなんだ。風がアイツだったんだ…だから、俺っ」
「………」
俺が言葉に詰まっていると、ディーノも口を閉ざした。
せっかく背中を押してくれたのに、飽きれられてるんだろうか?
「……隼人の話が本当なら、その風って奴が隼人の運命の人なんだろうな」
「っ…」
運命、という言葉が胸に痛いほど響く。
それを受け入れると決めたのに、なんて様だ。
「でもさ、本当にそれでいいのか?」
「え?」
思いがけなかったディーノの言葉に、俺は戸惑うように視線を上げた。
「隼人の夢の恋人の存在を信じてない訳じゃないぜ?アルコバレーノの風って奴には会った事はねぇけど、噂なら聞いてる。アルコバレーノの中でも温厚で優しい性格で、あのリボーンが良い奴だって褒めてたくらいだから、そんな奴なら隼人を幸せにしてくれるんじゃないかとも思うぜ?」
「だったら…」
「だけど、今の隼人の気持ちはどうすんだ?」
「…俺の、気持ち?」
「泣くほど恭弥が好きだったんじゃないのか?」
「っ……」
俺の今の気持ちなんて分かりきっている。
雲雀を好きだって気持ちを消すのは簡単じゃないって事も、俺が一番よく分かってる。
だけど、だけど…!!!
「俺はっ…アイツがいたから雲雀を好きになったんだ!」
「隼人…」
アイツがいたから、雲雀を意識するようになった。
雲雀はアイツじゃないと頭では否定しながらも、心ではアイツと雲雀の影を重ねていた。
きっかけを与えたのは、確かにアイツだったんだ。
「アイツの夢を見てなかったら、俺は雲雀を好きになんかなってなかったかもしれねぇんだ!」
怖いんだ、俺は。
この雲雀に対する想いが全部、アイツに対するものかもしれないことが。
「風の事だって…まだ出会ったばっかりだからよく分かんねぇけど、雲雀より好きになっちまうかもしれねぇだろ!?」
そしたらこの想いはどうなる!?
こんな俺を好きだと言ってくれた雲雀の想いはどうなる!?
今ここで、目先の幸せに手を伸ばして、雲雀の想いを受け入れて、自分の想いを貫いて………それでもそれが、運命じゃなかったとしたら?
俺が最終的に手を取るのが、アイツだとしたら?
一度受け入れた雲雀の想いを踏みにじるようなこと、あったらダメだ。
だったら最初から、突き放すしかないじゃないか…!!!!
「……ごめんな、隼人」
「っ…なんでディーノが謝るんだよ?」
「隼人の苦しみが分からない訳じゃないんだ。お前は頭がいいからな…ずっと先の事まで考えて、苦しんでんだろ?」
「っ……」
「だけどさ、隼人。人生に後悔のない人間なんて一人もいないんだぜ?」
「え?」
「いいんじゃねぇのか?目先の幸せに捕われても。夢とか運命とか考えないで、今の気持ちを大切にしろよ。
運命なんて、捩じ伏せろ!」
ディーノの言葉は、俺の心に強く響いた。
運命を捩じ伏せる。
それはイコール、アイツの事を……忘れるということを意味していた。
*サヨナラ、初恋*