企画小説

□婚約者
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俺と雲雀は、恋人………と言って良いのかと悩む時がある。

両想いなのは多分間違いないのだが、別に付き合おうとか、好きだとか言い合った訳ではなくて。

気がつけば側にいて、自然と唇を交わすようになって。流されるように身体も重ねた。

側に居るのが、いつの間にか当たり前になっていた。


そんな関係になってからも、雲雀は決して甘い言葉を吐かない。強いていうなら『君は僕のモノでしょ』とか、完全に物扱い。

でもそれは俺も同じだったから、特に不満なんかもなくて。
きっとこれからも、こんな曖昧だけど穏やかな関係が続くんだろうなとか、ぼんやりと考えていた。


恋愛が甘く切なく、激しいものだなんて誰が言ったんだろう。

この時の俺はまだ、そう思っていた。





*婚約者*






「なんか、今日は学校中が騒がしくない?」


始まりは、10代目のその一言。


「言われてみれば…なんか皆羽目が外れてると言うか…」

「あー、あれだろ。今日は雲雀が休みだからじゃねぇ?」



山本の言葉に、成る程と納得してしまう自分がいた。確かに今日はまだ雲雀の姿を見ていない。
休むなんて聞いてないけど、アイツはわざわざ言うような奴じゃないし、大方また風邪をこじらせたとかそんな理由だろう。

しょうがないから見舞いにでも行ってやるか。そういう弱った姿見られるのは嫌がりそうだけど。



「雲雀さんが休みだなんて珍しいね。あ、そう言えば雲雀さんの変な噂聞いたな…」

「噂、ですか?」

「あ!俺も聞いた!あれだろ、雲雀に婚約者が出来たってやつ!」


ズカン、と頭に大きな岩が落ちてきたような衝撃が走った。



「そうそう。でも、ただの噂でしょ?」

「それがそうでもないみたいなのなー。野球部の奴等が雲雀が女と歩いてるの見たんだって!高級住宅街にある老舗料亭の看板娘だったって話だぜ!」

「あの外観だけでも高そうな店の!?」

「雲雀ん家って名家なんだろ?やっぱり政略結婚とかなのか?」

「でも、年齢不詳とはいえ、雲雀さんはまだ中学生だよー」



二人の会話についていけず、呆然とした。

雲雀に婚約者?そもそも、雲雀が名家出身だなんて事も知らない。
いつもアイツが俺ん家に押し掛けて来たから、雲雀の家にだって行った事はない。


俺、雲雀のこと………なんも…。




「……くん?獄寺君!」

「へ?あ、すみません。何の話でしたっけ?」

「だから、獄寺も実家は金持ちだったんだろ?若いうちから婚約とか当たり前なのか?」

「俺はまだ8歳だったから流石に…。姉貴は10歳になる頃には候補くらいは居たみたいですが」

「へー。やっぱり俺達とは住む世界が違うんだね」



そうだ。もし本当に雲雀が名家の人間なら、もう婚約者くらいいたっておかしくない。
例え今はまだ居なくても、何れは…。

少なくとも俺みたいな男と何時までも付き合ってなんかいられないだろう。



(なんだ、だからか…)



だから雲雀は、付き合おうとか、好きだとか、そういう事を言葉にはしなかったのか。
いずれはこの関係が終わる事を、最初から知ってたから。



「政略結婚だかなんだか知りませんけど、雲雀と結婚させられる女に同情しますね」

「ご、獄寺君…。相手が雲雀さんとかはともかく、本当に好きな人と結婚出来ないなんて悲しいよね」

「でもお見合いだって政略結婚だって1つの出会いだろ?そこから本当の恋愛が始まるかもしんないじゃん!」

「まぁ、それはそれでロマンチックだけどねー」



本当の、恋愛。俺と雲雀の間には本当の恋愛なんてあったんだろうか。

雲雀の婚約を聞いて、知らされてない事に怒りを感じたが、悲しくはなかった。


俺は本当に、雲雀の事が好きだったんだろうか?



 
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