夢想恋華

□夢想い、恋の華咲く
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面会時間も過ぎ、10代目達は名残惜しそうに病院を後にした。


一人残された深夜の病室で獄寺は、窓から見える月をただぼーっと眺めていた。



頭に過ぎるのは、アイツの姿…。




「誰のこと、考えてるの?」

「っ……雲雀?」



いつの間に居たのか、病室の扉の前に佇む、雲雀の姿。

面会時間過ぎてるだろ?とかそんな疑問は湧かない。
この並盛で、雲雀にルールは無用なのだから。




「アイツの、事……考えてた」

「アイツって、君の夢の恋人のこと?」

「ああ」



そう言って俺は、再び月を眺めた。

月の光は、どこかアイツに似ている。


儚いけど、温かい光。

そして、決して手が届かない…。





「僕は運命なんて信じない」

「え…?」



雲雀の足音がゆっくりと近づき、俺が横になっているベッドの脇に雲雀が立つ。

月明かりに照らされた雲雀の顔は何処か切なそうで、それでいて力強い決意を感じた。




「君が好きなのがその夢の恋人でも、それが運命の相手だとしても…そんなの僕には関係ない!」

「ひば…」



言いかけて、俺は雲雀の唇によって言葉を遮られた。

重なる唇から感じる雲雀の温もりに、俺の頬に涙がつたった。




「抵抗、しないんだね」

「雲雀っ、俺…告白の返事…」

「聞きたくない」

「んっ…」



さっきよりも激しく重なる唇に、俺は力を抜いてその総てを受け止めた。


正直、少しホッとした。

夢の登場人物に恋してる、なんて……幻滅されるかもって、思ってたから。




「そういう反応されると、期待するんだけど?」

「ひば、り……俺、……俺はやっぱり運命を信じる」



獄寺の言葉に、雲雀の瞳が悲しく揺れた。



「だから僕は…」

「俺と雲雀はっ……出会う運命だったんだって!」

「え…?」



ずっと、雲雀とアイツを重ねていた。

雲雀はアイツなんだって、思ってた。



だけど、違う。アイツは雲雀であって……雲雀じゃない。



アイツは、俺の…―――









「母さん……だったんだ。俺の夢の恋人は…」

「は…?え?どういうこと?」



流石の雲雀も、直ぐに理解出来ないらしく、目を丸くする。

それはそうだろう。母さんは俺と同じ銀髪で、雲雀やアイツとは似ても似つかない容姿をしているのだから。




「俺の、予知能力…死を予知する以外もちゃんと見てたんだと思う」



ただ、死の予知だけが余りに強烈で、目を覚ました後も記憶に深く刻まれていた。

それ以外の夢は、普通の夢と同じで、ぼんやりとしか覚えていられなかっただけだったんだ。





「母さんは多分、俺が悪夢に苦しまないようにって、死んだ後も俺の夢に現れて守ってくれてたんだと思う。
ただ、母さん本来の姿で夢に現れたら、俺が余計に苦しむって分かってたから…」



母さんを守れなかった事を、俺が悔やまないように…。

母さんが居ない世界でも、俺が立派に生きていけるように…。



「だから……姿を変えてたって事?」

「多分、だけど。もともと死んだ人間に形はないんだし…」

「でも、それがどうして僕の姿なの?」

「そ、それは…」



雲雀の問いに、獄寺は顔を真っ赤に染めながらもごもごと口を開いた。




「……を……したから」

「え?」

「だ、たから!無意識に俺が将来好きになる人を予知してたからだろっ!!!」



半ば逆ギレのようにそう告げる獄寺に、雲雀は言葉を失った。


獄寺は今、なんと言った?


将来……好きに?





「その、だから……俺は雲雀のこと、好きだから。ちゃんと雲雀の事が、好きだから」



真っ直ぐな瞳でそう告げる獄寺を見て、ようやく実感した。


ああ、そうだ。僕はこの瞳を好きになったんだ。

そしてこの瞳が、僕を好きだと言っている。





「だ、黙ってないで…何か言えよっ」

「…ごめん、なんか夢みたいで」



ずっと獄寺の想い人に嫉妬してた。

僕に似てるなら、僕を好きになってくれればいいのにって…。


でもまさか、それが僕であり……彼の母親だったなんて。




(そんなの、敵うわけないじゃない)



まるで夢のような出来事、だけど夢じゃない。


これは、現実――






「好きだよ、獄寺」

「俺、も…好きだ。ごめんな…待たせちまって」




僕は運命なんて信じない。

自分の運命は、自分で切り開く。



だけど、君の言う運命なら信じてみてもいいかもしれない。



僕らは惹かれ合う、運命だったのだと―――



 
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