初恋迷宮
□縮まる距離
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「獄寺君、なんかご機嫌だね」
「えっ…そ、そうっすかね?」
夕食後
いつものように綱吉と山本と3人で食事を済ませた獄寺は、昼間の骸との約束を思い出しては浮かれていた
そんな獄寺を見ながら、綱吉は複雑そうな表情を見せる
(六道骸と…なんかあったのかな?)
あの骸の噂が真実なのか出まかせなのかは分からない
しかし、リボーンが警戒していたということは、何かしら骸に問題があるのは間違いがないのだ
だが骸を信頼しきっている獄寺にそんな事を言っても信じては貰えないだろう
なにより、それで傷つく獄寺を見たくなかった綱吉は、ただの杞憂で終わる事を祈るしかなかった
「じゃあ、沢田さん!また明日、おやすみなさい」
「うん、おやすみ獄寺君」
「また明日な〜」
笑顔で獄寺に声を掛ける山本に、獄寺はチラリと見るだけで返事を返さずに部屋へと戻っていった
今ではすっかり見慣れてしまった光景に、綱吉は小さくため息を吐き、山本を見上げる
すると、いつもは気にした様子もない山本が暗い表情をしていたことに目を見開いた
「山本…?」
「俺ってやっぱり、獄寺に嫌われてんのかな…」
今まで友達作りに苦労したことのなかった山本も、流石に獄寺は強敵らしい
山本の気持ちも、獄寺の気持ちも分からなくない綱吉は思わず苦笑した
「どう接していいのか分かんないんじゃないかな、獄寺君は」
「え?」
「獄寺君は生まれた時から親の跡を継ぐように育てられてきたでしょ?だから、同世代の友達ってあんまりいないんだよ」
「ツナがいんじゃん」
「……俺は獄寺君のこと友達だと思ってるけどね。獄寺君はどうだろ…いまだに敬語やめてくれないし…」
綱吉は大企業であるボンゴレの次期社長候補と言っても、子供の頃から一般人である母の実家で育てられていた
そのせいか、綱吉は将来人の上に立つ者としての自覚は薄い
しかし、獄寺は違う
幼い頃から自分の立場を深く理解しているし、一般人との交流はないに等しかった
そんな獄寺にとって山本の存在は、未知なるものなのだ
「でも、骸は?」
「さぁ、俺もよくは知らないんだけど、骸の父親が獄寺君の父親の部下だったらしいよ。息子を獄寺君に逢わせたってことは、余程優秀な人だったのかも」
昔、骸の事を獄寺から聞いていた綱吉だが、獄寺自身がまだ幼かったこともあり、骸の家族についてはよく知らないらしい
「んー、よくわかんねぇけど複雑だな、獄寺ん家って」
「そうだね…でも、山本なら大丈夫だよ。きっと獄寺君も心を開いてくれるよ」
「そ、かな…?」
すると山本が嬉しそうに微笑んだ
その表情に、綱吉は言葉を失う
「よーし!じゃあ諦めないで頑張ってみっか!」
「…そう、だね」
獄寺にとって山本が未知の存在なら
山本にとっても獄寺は今まで出会ったことのない存在なのだろう
「ちょっと……まずいかも」
山本の獄寺に対する興味が、恋心に発展しないことを綱吉は祈った