◇SS

□あなたはわたしのたからもの
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――この人がいれば何にもいらない。





思い返せば誕生日には必ずカカシ先生が隣にいてくれた。







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今日は俺の誕生日だ。いつものようにアカデミーに出勤して、いつものように同僚たちや子供たちと話して、今年もまたいつもと違う特別な言葉をもらってじわじわとそのことを実感する。いくつになっても生まれた日というのは何か浮足立つような気持ちを覚える。やはり祝いの言葉を言ってもらえるのはうれしいもので自然と笑顔になる。いつもと同じ、ちょっと特別な日常。
ただ違うのはカカシ先生がいないこと。


カカシ先生は一週間前から任務で家を空けている。出かける時まで眉をしかめて言っていた。
『先生の誕生日に間に合うかなぁ』それを聞いて『任務ですから』と寂しさを隠して笑顔を見せた俺にカカシ先生はぽつりと言った。
『………俺はね、貴方がうれしいと自分もうれしいんです。色んなことがあっても俺といて幸せだと思ってほしいんです。』
そして俺の頬に手を伸ばし言った。
『俺のイルカ先生への告白の言葉、覚えてる?』





ナルトを介して知り合って、それからたまに一緒に飲みに行ったりするようになった頃、俺はカカシ先生に告白された。突然のことに固まった俺は彼を見つめることしか出来なかった。それでも拒絶の言葉は思い浮かばなかった。
だってその頃からカカシ先生と過ごす時間は俺にとってとても心地のよいものだったから。何も言わない俺にカカシ先生はゆっくりと言い聞かせるように言った。
『イルカ先生、俺ね、あなたと会うと優しさだとか思いやりだとか愛しさだとか、そういうのでいっぱいになるよ。でね、そういう俺の中の柔らかい部分を全部イルカ先生にあげたくなるの。俺はね、ずっと、ずっとあなたに何があっても最後には俺といて幸せだと思ってほしいの。』
そしてまた俺を優しく見つめ言った。


『好きです、イルカ先生。俺とお付き合いして頂けませんか?』




――――覚えてる、その時の彼の言葉と彼の表情、忘れるわけがない。そんなことを言われたのは生まれて初めてで、俺は何故だか泣きたくなるような幸せを感じた。今思えば俺もその頃既にカカシ先生が好きだったんだろう。
『だから、ね。イルカ先生の誕生日だとかやっぱり張り切っちゃうわけですよ。イルカ先生の大切な日に側にいないなんて恋人失格でしょう。』
そんな風に拗ねたようにいうカカシ先生が可愛くて頬に当てられた手に自分の手を重ねて言った。
『そんな風に言ってもらえて本当に俺、うれしいです。俺もカカシ先生が誕生日にいないのは正直寂しいんで。』寂しい、だけどそれでも『でも任務で絶対無理なんかしないで下さい。もし、もしカカシ先生に何かあったら俺…』
その後の言葉は怖くて紡げなかった。自分達は忍びだ。そういうこととは常に隣り合わせの毎日だけれども、もしものことなんか考えたくないし、口にだって出したくない。そんな俺の心の動きを読んだのだろう。カカシ先生は苦笑いしながら空いた手で頭を掻きながら、俺の頬に当てていた手を首筋に回し、俺を肩に抱き寄せ決まり悪そうに言った。
『わがまま言って困らせてごめんなさい』
そんなこと、カカシ先生は何も悪くない。俺が慌てて顔を上げると、カカシ先生が悪戯っぽい目をして俺に言った。
『俺、無理しないで頑張って早く帰ってきます。無茶はしないでできるだけ早く。』
その彼の矛盾した物言いに俺は思わず笑ってしまった。おかげで、俺はカカシ先生を笑顔で送り出すことができた。
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