短編U

□第三者
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■ハボック


 この小さな頭蓋骨の中身はいったい何がつまっているのだろうか。
 きゃんきゃんと吠え付く犬のように。
 うなり声を上げて尻尾を膨らませる猫のように。
 上官に挑みかかる史上最年少国家錬金術師。
 俺はその姿をぼけらっと見ながらそんなこと考えていた。

 決して仕事をサボっているわけではない。
 来月に控えた北部との合同演習についての相談をしていたところ、この小さな錬金術師が嵐のように現れて自分の相談相手を奪ってしまったのだ。

 じゃれつく犬をかまってやるように、威嚇する猫をいなすように、目を細めて応対する上官は非常に嬉しそうに見える。
 大佐が女遊びをやめたのはこの少年のせいだ、という噂はある。
 また、この子供が大佐のお手つきだという噂も。
 確かに最近の大佐は女性とのデートを控えている。
 いや、たぶん、ここ半年ほど、俺の知る限りでは一度もデートをしていない。
 憑き物が落ちたように、って表現があるが、まさにそんな感じだ。
 一年前までは羨ましいくらい──いや、あきれるほどに、とっかえひっかえに近い勢いだったのに。

「わかった。じゃぁ、また後で来るから用意しておけよな」
「君ね、それが人に物を頼む態度かね? しかも私は仮にも君の上官なのだがね?」
 呆れ果てたという態度で、嘆かわしいと言わんばかりに首を振る大佐だが、その実、このやりとりが楽しくてしかたないのだろう。
 なんだかんだ文句や小言を言っても、最終的にはこの小さな錬金術師の要望を過不足なく聞き届けてやっているのも知っている。
 その一部始終を知らなくても、大佐がこの少年を可愛がっているのは丸わかりで、だからあんな噂がまことしやかに流布されているわけだが。

 だからってなぁ。
 金と黒の頭を見下ろして2人を等分にながめる。
 この二人のやりとりを目の前で眺めて、それでもそんな噂を信じるヤツがいたらお目にかかりたいものだ。
「とにかく、今日中に用意しろよっ!」
 ナリは小さくても威力は最大の嵐が去っていく。
 中断されていた合同演習についての留意事項を確認しようと、俺は口を開きかけ──。
 そのまま止まってしまった。
 なんとなれば。
 大きな音を立てて閉まったドアを大佐が見つめていて。
 しかもその表情は──。
 た、大佐──?!



続く………かも、しれない

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