「君はそれでいいのか?」
「何が?」
「君の
帰還りを待つ人がいるだろう」
「それはアンタもおなじだろ」
オレは……、オレはどこでもいいんだ。
「アンタの側で眠らせて…」
「鋼の……」
「どんな場所でも良いから…」
生きるも死ぬもアンタの側なら。
声にできない想いが心の奥底から湧き上がる。
エドワードの心の声を聞き取ったようにロイはふっと笑った。
「では、いよいよという時には階級章をむしりとるか」
肩に乗せた星の重さははこんな時に邪魔になる。
ただの兵士のように死んでいくことさえできない。
「焔の錬金術師と鋼の錬金術師が敵の手に落ちて、無事で済むとは思えんしな」
「取引材料に使われるなんざごめんだし、そんときゃ、二人並んで自決でもするか」
「まったくだな」
「でも、そんなことにはならないだろうけどさ」
「おや、言い切るね」
「だって、アンタの作戦だろ? これ」
この期に及んで喰わせ者の焔の中将以外の誰が国家錬金術師を2人も、しかもどちらも要職についている軍人を投入するというのだ。
「アンタが勝算のない賭けなんかするわけないじゃん」
そのためにオレを呼び寄せたんだろ?
地図の下に隠れていた作戦要綱をひっぱりだして、すい、と放った。
テーブルの上をすべってきた紙を拾い上げてロイは目の前にかざす。
「高く買ってくれるのは嬉しいが、この作戦は私情から出たものでね」
「私情?」
紙片の端から片方だけ覗かせた黒い瞳がふいに緩んだ。
「最期くらいは共にありたい、と思ってね」
ひとつだけの視線を真っ向から受け止めていた金色の瞳が大きく瞬いた。
生きるも死ぬも一緒だと。
その想いはエドワード一人のものではないと。
声には出せぬ決意が交錯する視線に籠められていて。
けれど、自ら
終焉を願うなど、互いに許せるはずもなく。
二人は同時ににやりと笑う。
「そんじゃ、生き残るために明日も頑張りますか」
立ち上がったエドワードは形ばかりの敬礼をして踵を返した。
「鋼の。頼りにしてるぞ」
背中に受けた激励には軽く手を振ることで応じてテントを後にする。
国の趨勢を決める戦の前夜は静かに更けていった。
終
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あとがき
お読みくださってありがとうございます。
二周年企画お題第八弾、これで最終回です♪
ずっと考えていたネタがなかなか形にならず、ふいに思いついたネタで一気に書上げてしまいました。
お題をくださった里まい.さまは、きっとこんな風に使われるなんて思ってなかったと思います(汗)
一応、かっこいいロイとエドを目指してみました。
企画にご参加くださいまして、本当にありがとうございます。
お楽しみいただけると良いのですが。
2008/05/11