「ってことはなんだ? これから軍部の新年会で、大佐と中佐は隠し芸大会に出場するってことか? でもってオレに協力しろって?」
「そういうこと」
「ざっけんな!」
がばっと白いふわふわ頭をふりあげる。
「優勝賞品はなんと、軍の食堂の食券一万センズ分だぞぉ」
お前にもなんかご馳走してやるからよ、とヒューズは猫のあたまをつつく。
「じょうだんじゃねーぞっ!」
ヒューズの手を振り払ってエドワードは立ち上が……れない。
立ち上がろうとはするのだが、ぬいぐるみの手足はくたんと折れ曲がってしまう。
「うまく力がはいんねー」
「にゃんにゃんは、くたくたっとしたつくりだからなぁ」
「中佐ぁ、いい歳した大人がにゃんにゃんとか言うなよなぁ」
がっくりと脱力。
「なんでだよ。にゃんにゃんはにゃんにゃんだろ」
「……も、いいよ。それでオレにどうしろってんだよ」
「なぁに、かわいらしくにゃーんって鳴いて、俺の口上にあわせてちょこっと踊ってくればいいからよ」
「お、踊るぅぅ?! で、できねーっ。そんなこと、オレできねーよっ」
「鋼の。私は賞品を折半する約束で手伝ったんだ。ヒューズに優勝してもらわなくては無駄骨だ」
何やらドスの聞いた低音がぬいぐるみになったエドワードの、ないはずの鼓膜を振るわせる。
「え、えと、あの」
「まさか、ずっとそのままの姿でいたいわけではなかろう?」
尻上がりの言葉とともに口元が片方だけあげられる。
「きょ、協力すれば元に戻してくれるんだな?」
「気にするな、鋼の。会が終わったらちゃんと戻してやる」
「ちゃんと戻るって保証はあんのかよ!」
「私の腕を信用しろ」
「信用できねーから言ってんだろっ」
ほわほわ白にゃんこと会話する東方司令部所属の大佐の背を、軍法会議所所属の中佐がつつく。
「ロイ、そろそろ行かないとエントリーに間に合わない」
「鋼の。諦めて行ってこい」
首を掴んで宙に浮いた四肢をバタバタさせる、白いにゃんにゃんをヒューズは大事そうに受け取った。
「さぁ、エド、頑張ろうな」
と、ヒューズが部屋のドアを開けようとしたその時。
「大変ですーっっ!!」
がしょんがしょんと騒々しい音を立てて大きな鎧が走りこんでくる。
片腕に彼の一番大事な兄を抱えたアルフォンスだ。
「中佐ーーっ!! 兄さんが急に動かなくなっちゃって……!」
その言葉に未来のアメストリスを背負うはずの、中佐と大佐の大人二人は顔を見あわせ、しまった、と目線を交わす。
「ね、寝ているだけじゃないのかね。鋼のことだからまた遅くまで文献を読んでいて、寝不足なのだろう」
「あ、あれ? 大佐、いらしてたんですか?」
思ってもいなかった人の姿を見つけてアルフォンスは立ち尽くした。
アルフォンスの視線がロイを向いているうちにヒューズは猫の耳元に声を出すなと脅しをかけて。
「そうそう、きっとすぐ目を覚ますさ。そこのソファに寝かせておくといい」
「え、あ、はい」
「アルフォンス、私達はちょっと用事があって席をはずすが、君は兄と一緒にここにいるといい」
「おー、どうせ誰もここにはこないから、エドが起きるまでゆっくりしてろや」
「あ、はい。ありがとうございます」
指示通り来客用ソファに兄の身体を横たえて、アルフォンスは深々と頭をさげる。
その鎧の視線から逃げるように、二人の佐官は新年会会場へと向かっていった。
終
2008/01/01