中・長編
□いつか二人で (P6)
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充分とはいえない準備期間にも係らず、作戦は着々と進められXデーを迎える。
それは街に潜むテロリストを燻りだして一斉検挙するという中央から押し付けられたいささか無理のありすぎる作戦案にロイとブレダが修正をかけたものだ。うまくいけば、今日一日でほぼ片がつくはずだ。
大きな工場がいくつかまとまった工場地帯であるミリィの街は、その住人のほとんどが工場で働く人々とその家族だ。
企業秘密保持のため工場に部外者は入れない。ロイはそこに目をつけた。
出勤した工員はそのまま工場に立てこもり自分の職場を守るよう通達をだした。もちろん、工場ごとに最低限の兵を派遣してある。
家に残る女子供と老人達は安全なところに避難させいくつかの中隊に徹底して守るように指示が出された。
この作戦がきちんと実行されているならば、街に残っているのは軍人とテロリストだけのはずだ。
燻し出すよりも手っ取り早く、取り残されたという不安は敵を浮き足だたせる。
街中でひとつ囮の爆音が響けば、すぐに銃撃戦がはじまった。なるべく生かして捕まえるようにと命令されているが、民間人が残っていないという前提だから軍人たちの攻撃も容赦がない。
あちこちで銃撃と爆発くりひろげられ、ミリィは戦乱呑み込まれて行った。
街はずれ、高台の公園は普段であれば市民の憩いの場なのであろう。
芝生と噴水が整備され、瀟洒なデザインの小さなホールが建っている。
ホール横の、街を見おろす展望台に数人の軍人がいる。通信機器に向かうフュリー、双眼鏡を覗くハボックの報告通りに、広げた地図上に待ち針を刺していくファルマン、その動きから戦局を見極めるブレダ。
そして、彼らの働きを見守るように腕を組んで立つロイとその背後に控えるリザ。
地図を見れば、作戦通りテロリストの一掃に励む隊がある一方、守りが手薄になっている地区があることが一目瞭然だ。
本部が置かれている学校へと続く道の全てから軍が退き、自然とテロリスト達はそちらへと流れていく。
「捨て駒にされたようですね」
淡々としたリザの声に慌てるようなものはここにいない。
「そのようだな」
あまりにも予想通りの展開に薄笑いさえ浮かんでくる。
「ずいぶんノンキだな」
背後から呆れた口調がかけられて、二種類の足音が交互に石畳を打つ。
「知ってたんだろ?」
でなければ作戦司令部を空にして指揮官自らこんなところにいるはずがない。
「まぁな」
肩をすくめて肯定するロイのどこにも動揺らしきものは見当たらなかった。
だいたい今回の作戦は最初からおかしかったのだ。
大隊と称してもおかしくない程度の規模でしかないのに連隊として組織し、連隊だからと指揮官に大佐を充てる。
しかも、指揮官に隊を編成させるわけではなく、あらかじめ編成された連隊を指揮しろと押し付けられたのだ。
おかしいと思っていても拝命せざるを得ないのが軍人であれば、その中で策を弄し生き残り、かつ功績をあげることでしか這い上がることはできない。
「ということは君も知ってたのか?」
「中央司令部でちらっと小耳に挟んじまってね」
知らせようと電話をかければ、しばらく東方司令部を留守にするよと、まるで散歩にでかけるような口調で告げられた。
中央の狸じじいどもの思惑に気づかないほどのマヌケではないとは思うものの、用意周到にいくつも張り巡らされた罠のひとつにひっかからないとも限らない。
さんざん躊躇ったあげく、ヒューズの助力を得て派遣部隊にもぐりこんだ。
そこまでしてやる必要があるのか、と自分でも思ったけれど、危機を知ってて見過ごせるほど自分にとって軽易な存在ではなかったのだ。
このイヤミで胡散臭くてムカツク大人は。
「それで。君はなぜここにいるんだね?」
エドワードがもぐりこんだ中隊は西地区の民間人を保護している筈ではなかったのか。
「近くで銃撃戦が始まったんだ」
民間人を守るために配置されているのだ。巻き込まれることはもちろん、流れ弾で負傷させるようなこともあってはならない。
守りの陣形を整えるとともに、一小隊を銃撃戦の援護に向かわせようと、中隊長であるベリング大尉は指示を出した。
しかし、その時すでに兵士の数は少なくなっていた。
「やられたのか?」
今まで黙っていたブレダが口を挟んだ。
「そうじゃない」
エドワードは呆れたような気配をにじませて首を振る。
「どちらかの仲間だったというわけか」
テロリストの仲間か、中央でロイの失脚を狙う輩の仲間か。