中・長編

□defrayment (P24)
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 結局、ロイが折れてエドワードがセントラルシティを旅立つことになったのは春になってからだった。もちろん、いくつもの条件をつけた上での出発だ。

 なんの肩書きも持たないエドワード・エルリックという個人に軍の護衛をつけられるわけもなく、国内各地の視察という隠れ蓑を整えたアルフォンス・エルリック准尉がその旅程の全てに同行することが、ロイの出した第一の条件。
 これについてはエドワードもアルフォンスも意義を唱えなかった。
 エドワードの記憶を再構築するための旅であれば、過去の行動を全て共に過ごしてきたアルフォンスが必要不可欠だったから。

 そして、エドワードが呆れるほどに細かい条件が山のように。

 ひとつ、トラブルには巻き込まれないよう努力すること。
 ひとつ、トラブルを見つけた際には近くの憲兵に連絡し、自分は見て見ぬふりをすること。
 ひとつ、朝起きて夜に寝る生活をすること。
 ひとつ、寝るときにお腹を出さないこと。
 ひとつ、電話を毎日かけてくること。
 ひとつ、アルフォンスの言うことをきくこと。

 そして──。

「ったく。君のこれからの人生を共に歩めるなら、過去などどうでもかまわないのに」

「まーだそんなこと言ってるのかよ」

 すでに列車に乗り込み窓際に座るエドワードに、ロイはホームから手を伸ばした。
 指の長い手がエドワードの頬にかかる金糸を掬い上げ耳にかけてやる。
 隣に座るアルフォンスは、そんなはずかしい兄と上司など見てられるもんか、とそっぽを向いている。
 まったく、国軍少将ともあろう人が、たった一人で、どんな危険人物がいるともわからぬ駅にいるだなんて。
 心の中で呟く文句は実にまっとうで正当なものだったが、もちろんその核となるのは「いいかげんにしてくれ」と言いたいような呆れにもにた感情だ。

「アンタが良くてもオレが良くないの」

 頬をすべる手を捕まえてぎゅっと握り締める。

 提示された数々の条件のうち、最も重要な項目。
 そして、必ず自分の元に帰ってくること。

「大丈夫。絶対、アンタのとこに戻ってくるから」

 オレが帰る場所は、ここにしかないから。
 その手に軽く唇を触れさせる。誓約のように。

「待っているよ。だから早く帰ってきてくれ」

 窓からのぞく子供の頃と何一つ変わらないその瞳。
 そっとその額に唇を寄せて。

「うん」

「では、少将、行ってまいります」

 発車を知らせる汽笛がなり、蒸気が吹き上がる。
 ゆっくりと動き出す汽車を追って、ロイは数歩足を進める。
 窓からのぞく金色の頭との距離が開いていく。




 汽車がすっかり見えなくなって、ホームに人影もまばらになり、ようやくロイは足を動かす。

 改札に向かって歩を進めながら、柱の影に声をかける。

「行くぞ」

 気づかれているとは思っていなかったハボックは、うへぇ、と返事にならない声をあげてあわててあとを追う。

 今日も暖かい、いい天気になりそうだ。
 空にぽっかりと雲が浮かんでいた





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あとがき

お読みいただきましてありがとうございます。
一万ヒット記念で始めた連載でしたが、なんとかあとがきを書くところまでこぎつけました。
公私共に忙しい時期と重なってしまって、後半は更新スピードが落ちてしまいましたが、無事に終了できてほっとしています。
タイトルの『defraymen』は代価という意味です。
(仮)とつけて続けてきましたけど、書き終わっても他にいいタイトルが思いつかず、かといって(仮)を取る気もおきません(汗)
どなたか私のかわりにタイトルを考えてください!

2007/04/09

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